静岡県立大発 まんが しずおかのDNA(6)自然薯ととろろ汁

 東海道丸子宿の名物「とろろ汁」は、十返舎一九の滑稽本「東海道中膝栗毛」や歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」などに登場するため、県外の人にもよく知られている。

漫画=かとうひな
漫画=かとうひな

 とろろ汁は、日本原産のヤマノイモ科ヤマノイモ属の自然薯[じねんじょ]をすりおろし、汁などでのばして調理する。まず、自然薯の表面に生えている細い根を火であぶって焼き取った後、おろし金やすり鉢の目を使って皮ごとすりおろし、これをさらにすりこぎでよくする。
 現在も、とろろ汁は県内各地で秋冬の家庭料理として日常的に食べられているが、すりおろした自然薯をのばす汁には、地域ごとに特色がある。多くの地域はみそ汁でのばすが、東部ではしょうゆ味の清汁や、しょうゆをそのままかけてのばすところがある。中部では、おもにかつお節のだしを使ったみそ汁でのばすが、西部ではさばのだし汁を使ったみそ汁でのばし、さばの身も一緒に入れるところがある。このように、静岡では地域に伝わる方法でとろろを好みの味や粘り気に仕立て、茶わんに少なめに盛り付けたご飯や麦飯にかけて食べる。
 自然薯は、食用のみならず古来より漢方薬の「山薬」としても利用されてきた。効能には滋養強壮、疲労回復、食欲増進、虚弱体質の改善などがある。さらに、自然薯にはジオスゲニンと呼ばれる成分が含まれ、糖尿病や高コレステロール血症に効果があるとされる。
 一方、世界に類を見ない超高齢社会を迎えた日本では、高齢者の死亡原因の多くは誤嚥[ごえん]性肺炎と推定される。加齢によって飲み込む機能が低下すると、食道から胃に運ばれる食物が誤って気道に送られ(誤嚥)、肺炎の原因となる。とろろの粘り気は、片栗粉などで付けるとろみとは異なり、粘度に加えて弾力もある。そのため、とろろ汁は口中でかみ砕かれたご飯などの食べ物をひとまとまりにすることができ、安全に飲み込むことができる。すなわち、とろろ汁は単なる名物料理ではなく、健康寿命の延伸に役立つ優れた料理である。
(新井映子 食品栄養科学部教授/調理科学)

 静岡県立大の執筆陣が文理の枠を超え、漫画を使って静岡のDNA(文化・風土)を科学的に解き明かす(静岡新聞月曜朝刊「科学面」掲載)。

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