静岡県立大発 まんが しずおかのDNA(3)戦後映す紙芝居

 2017年、静岡県立大の図書館に194点の紙芝居「浦上史料」が寄贈された。掛川の篤志家、浦上喜平氏が収集・使用したものである。浦上氏は戦争中、掛川に集団疎開して来た東京の児童たちの世話や慰問活動に奔走し、その一環として紙芝居を上演するようになった。全国に紙芝居を収集している機関はいくつかあるが、一個人が実際に使うために集めた史料群としては国内最大規模である。

漫画・かとうひな
漫画・かとうひな

 紙芝居の発祥は昭和初期(1920年代末)で、まだ生まれて100年も経過していない。最初に上演されていた街頭紙芝居は手描きで、エロ・グロ・ナンセンスの時代を率直に反映した継子いじめや猟奇ものなど、大人が眉をひそめるような内容だった。
 その後、宗教関係者や教育関係者が印刷された紙芝居の普及をめざし、裾野を広げていく。37年に始まった日中戦争が泥沼化していく中、紙芝居の伝播[でんぱ]力に注目したのが政府だった。国民を戦時体制に動員するための、啓蒙[けいもう]のツールと考えたのである。こうして印刷された国策紙芝居が、全国に大量に広まっていった。米国との戦争が始まった直後の42年、紙芝居の出版はピークを迎えた(出版件数300点超、発行部数83万部弱)。その約7割が戦意高揚や国策協力を説くものだったが、残りは娯楽ものや純粋な子供向けであった。
 戦後、子供向けが紙芝居の主流になるが、戦後改革(農地改革や婦人解放、民主警察)を題材とした啓蒙ものも出版されていた。浦上史料はこれらをカバーしており、ここでしか見られない貴重なものも多い。啓蒙ものは、当時の世相を反映しているため、その時代を理解する格好の歴史史料である。また、時局と無関係の子供向けのものは、時代を超越して心に迫る。現在でも人気の「泣いた赤鬼」、戦後何度も再版された「太郎熊次郎熊」シリーズなどの名作がそろっている。
 図書館では申請すれば誰でも閲覧できるので、手にとって眺められてはいかがだろうか。 (森山優 静岡県立大国際関係学部教授/日本近現代史)  ◆--◆--◆
 静岡県立大の執筆陣が文理の枠を超え、漫画を使って静岡のDNA(文化・風土)を科学的に解き明かす(静岡新聞月曜朝刊「科学面」掲載)。

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