静岡県立大発 まんが しずおかのDNA(2)富士山が生む科学

 10月22日、平年より22日遅れて、初冠雪が観測された世界文化遺産「富士山」は、文化的側面だけでなく科学的側面でも貴重な存在だ。

漫画・かとうひな
漫画・かとうひな

 江戸時代、富士山は測量での目標点であり伊能忠敬の日本地図の礎となった。明治初期には、政府が東京帝国大学の外国人教員として物理学者のメンデンホールを米国から招聘[しょうへい]している。彼は日本人の弟子を引き連れて夏の富士山頂で気象観測・重力観測等を行い、弟子を育てており、そのうちの一人である中央気象台(後の気象庁)の中村精男は、後に山頂で夏季気象観測を行った。なお、山岳での気象観測は、気象予報の精度を向上するためである。
 その直後、通年気象観測が必要という強い信念を持つ野中到・千代子という夫妻が現れ、私財を投じて越冬観測を試み、脚気[かっけ]による下山までの3カ月間、世界初の通年観測の試みは、国民の心を打った。その後、かわるがわる中央気象台の職員によって通年の山頂観測の試みがなされ、ついに常設の富士山測候所が設立された。1964年には、5098人の犠牲者を出した59年伊勢湾台風を契機に、台風予測を行うべく山頂に世界最高性能のレーダーが設置された。
 99年に同レーダーは人工衛星に役目を譲り運用停止し、測候所も2004年で無人化された。しかし、高度4キロ弱の尖状孤立峰[せんじょうこりつほう]という富士山の形状は多種多様な研究者を魅了し、NPO法人「富士山測候所を活用する会」が設立され、05年には施設借用開始に至っている。ここでは夏2カ月間は有人観測、それ以外はバッテリー等で無人観測が行われている。
 今や研究テーマ数は右肩上がりで40件を超え、県立大関係も約2割を占める。経済活動が活発な東アジアの高層大気下流に位置する富士山では、温暖化ガス、PM2・5、汚染ガスの貴重な環境データが得られており、筆者が関わる雷の直近観測など地域的だけでなく、グローバルな視点でも社会貢献がなされている。
 静岡県が人類に貢献できるこれらの財産を今後も維持していくべきだろう。 (鴨川仁 静岡県立大グローバル地域センター特任准教授・地球惑星科学)  ◆--◆--◆
 静岡県立大の執筆陣が文理の枠を超え、漫画を使って静岡のDNA(文化・風土)を科学的に解き明かす(静岡新聞月曜朝刊「科学面」掲載)。

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