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危機管理の思想/静岡県立大・小川和久特任教授【感染症を知る】

(2020/5/4 11:00)
横浜・大黒ふ頭に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=3月(共同通信社ヘリから)
横浜・大黒ふ頭に停泊するクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」=3月(共同通信社ヘリから)

 新型コロナウイルスにおける危機対応では、目的を可能な限り早く達成するために優先順位を決めることが重要だ。静岡県の危機管理に携わる小川和久グローバル地域センター特任教授(外交、安全保障、危機管理)は「自然災害も感染症も、県民の命を守るのが最優先である点では一緒」と指摘し、大規模災害対応を見据えた「静岡方式」を確立すべきと強調する。
 
 ■新型コロナウイルス禍を戦争に例える声を聞く。どう捉えるか。
 普通の戦争では市民がターゲットになることは基本的にないが、今回は国民全員が生命の危機に直面している。いわば「寝床の中で隣に敵が寝ている状態」で、より危険な戦争。いかに感染拡大を防ぎ終息に持っていくかが危機管理の基本で、大規模災害や武力紛争以上に危機感をもたなければならない。

 ■政府の危機管理対応をどう評価するか。
 政府は(営業を自粛した店舗などへの)補償の問題や経済的影響を気にしていたが、今回の場合は国民の生命を守るのが最優先。休校要請や自粛要請、緊急事態宣言などの政府対応は、最も危険な戦争であるという危機意識が薄く、落第点だった。早期終息には全国的なロックダウンとパチンコ店のような感染が生じそうな業種の全休業、さらには台湾と同様に罰則を伴った対応を取るべきだ。

 ■休業補償をどう考えるべきか。
 終息と休業補償は同時にはできない。終息が遅れるほどに医療崩壊が起き、補償の財源も細る。何回かに分けることになるだろうが、経済活動が低調になると税収が減り、補償額も減るという共通認識を行政も国民も持たなければならない。
 東日本大震災レベルの大規模災害時の救済措置である「激甚災害法」と同様の発想を持ち、行政も国民も新型コロナに伴う救済を講じる考え方の整理が必要。

 ■集団感染が広がったクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内対応で、厚生労働省からは感染者が出たが、自衛隊からはなぜ出なかったのか。
 自衛隊の場合、生物化学兵器の種類と特徴、対処法やガスマスクの着け方など、感染対策の基礎知識を全員が持っている。一方、厚生労働省では、インフルエンザのマニュアルがあるとはいえ、感染せずに戦い続ける発想はなく、訓練も受けていない。クルーズ船対応では、平時から自分の身を守って戦う意識の高い自衛隊と、そうでない省庁との危機管理意識の違いが如実に出た。

 ■自衛隊はどのように動いたか。
 クルーズ船対応に投入されたのは、医官と看護官、専門の隊員が中心の「対特殊武器衛生隊」など陸上自衛隊の専門部隊。生物化学兵器の攻撃に対し、傷病者の診断・治療・除染などの能力と資機材を備えている。日頃からエボラ出血熱のような新型コロナよりシビアな状況を想定し、訓練を積んでいる。
 「東部方面衛生隊」は傷病者を治療する人員、装備品を持ち、汚染の度合いによるゾーニングなどを実施。乗客を運ぶ大型バスを出す「輸送隊」は操縦手も添乗隊員も防護服を着用し、中もビニールで仕切った。到着先では対特殊武器衛生隊員が消毒し、脱ぎ捨てた衣服も処理した。これがシステマティックにできたので感染しなかった。
 
 ■静岡県の新型コロナ対応は。
 懸命に取り組んでいるが、現状は「やめまいか」で「やらまいか」の発想にはほど遠い。指示がないと動けず、中等症患者の収容施設を一気に180棟つくる神奈川のような他県の有効事例があっても、学べていない。新型コロナ対応では法律が手かせ足かせになりがちだが、法律には弾力性もある。要は「やらまいか」というやる気が求められている。

 ■新型コロナ対応と、大規模災害対応はどう重なるのか。
 地震と感染症は現象は重ならないが、最優先事項を決めて〝拙速〟に進める危機管理の思想は重なる。「県民の命を守る」という最優先事項は一緒であり、静岡県が防災先進県かどうか、新型コロナ対応でも問われている。
 健康福祉部と危機管理部が一緒に動く静岡県の新型コロナ対応では、独自の「静岡方式」の試みが求められる。例えば、今は感染者数が100人未満だが、千人を超えて病院に収容できなくなる事態を想定し備えておくようにと指示した。廃校を活用したり、学校の校庭にテントを張ったりなどの準備をすれば、重傷患者1万人以上が想定される南海トラフ地震にも応用できる。
 南海トラフ地震と新型コロナ対応を個別に捉えてしまうのが普通の行政だが、新型コロナ対応中に他の災害が起きることも想定される。地震だけでなく富士山噴火、原発事故などにも視野を広げて取り組むことが重要だ。

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