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経済危機と健康/静岡県立大・竹下誠二郎教授【感染症を知る】

(2020/4/27 09:30)
原油価格(WTI原油先物)と米国10年債利回りの変動
原油価格(WTI原油先物)と米国10年債利回りの変動
新型コロナウイルス 国別感染者数の推移 4月23日時点
新型コロナウイルス 国別感染者数の推移 4月23日時点

 感染症は健康のみならず、経済活動にも多大な影響を与える。経営情報学部長の竹下誠二郎教授(国際経営)は、新型コロナウイルスに伴う経済危機は2008年のリーマン・ショックとは異なる「ヘルスクライシス」(健康による危機)であり、感染拡大防止策こそが経済対策の最たるものと指摘する。

 ■新型コロナの影響で、株価、債券、為替はどう連動したか。
 最初はリーマン・ショックと同じく、リスクの高い金融商品から、低リスクの安全資産に移す「リスクオフ」で株が売られ、債券に動く典型的なパターンだったが、3月上旬から中旬にかけて米国の債券も売られた。
 きっかけは、同月6日の石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国による「OPECプラス」で、協調減産協議が決裂したこと。ニューヨーク(NY)原油先物市場で今年初めに1バレル60ドル前後だった原油価格は、3月20日に一時18年ぶりとなる20ドル割れまで落ち込んだ。米国にとってシェールガスは昨今の成長を支えてきた柱だったが、デフォルト(債務不履行)リスクが生じて債券、さらには安全資産として近年人気を集めた円や金も売られ始め、結局キャッシュに流れる最悪の状況に陥った。

 ■4月20日のNY原油先物市場で、5月先物価格が史上初めてマイナスとなったのはなぜか。
 新型コロナの影響で原油需要が激減し、在庫が増え、保管スペースが枯渇しているからだ。これは天然資源の収入に頼る国々にとっては命取りとなる。1997年のアジア通貨危機に端を発した石油価格の暴落は98年のロシアのデフォルトにつながった。99年の同国のインフレ率は85%まで達している。石油依存度が高すぎた天然資源依存型経済機構であったからだが、今もそれは変わっていない。

 ■3月中旬にNYダウ市場が乱高下した要因は。
 新型コロナの流行の中心が、米国にとって物理的、心情的に近い欧州へ移ったタイミングで需給が悪化し、その後米国は実際に感染者数が急増した。
 米国は新型コロナに関する情報を当初「民主党の陰謀」などと軽視したトランプ大統領、新型コロナの対策担当がキリスト教右派の福音派でダーウィンの進化論を否定するペンス副大統領と、首脳陣が「反科学的」だ。さらには無保険人口(8・5%)の多さもネックとなるだろう。米国の知識層の多くが状況悪化の可能性を認識し始めたのが3月上旬だった。

 ■リーマン・ショックと今回のコロナ・ショックの違いは。
 リーマン・ショックは金融機関、政治、欲が絡み合って起きた金融工学の失敗だが、今回は「ヘルスクライシス」。パンデミック(世界的大流行)の曲線がフラットになれば政策の度合いも図れるが、根本の前提条件である感染者数が急増している限り、予想しようがない。また、各国でヘルスケアの現状、政策、ハグやキスなどの文化が大きく異なるため、数値の比較が容易ではない。
 私としては日本は危機意識が甘過ぎると強調したい。中でも意思決定権を持つ中高年の危機意識が低すぎる。リーマン・ショックの時は個人で対処できることに限りがあったが、今回は一個人が手洗いを徹底し、管理者が「3密」を避けるのが「経済活動」の最たるもの。財政投資や金融サポートを行っても、ロックダウンして感染者数が減らなければ意味がない。

 ■SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行した2003年とは状況がどう違うか。
 中国の存在感が違う。世界に占めるGDPは当時4%だったが、今は16%で世界第2位。中国は今や「世界の工場」で、商品の製造から販売までの工程・システムを担うサプライチェーンの要だ。通常なら、購買行動を控えていた消費者の需要が一気に高まりV字回復する「ペントアップ・デマンド」が期待できるが、今回はサプライチェーンが寸断されている。また、中国のサプライチェーンが万が一回復しても、欧米の需要が痛んでいるため、早急には回復しないだろう。

 ■ポスト・コロナの時代はどうなるか。
 特定の国の経済、社会、政治状況に依存する「カントリーリスク」の見直しが進む。日本では中国に対するFDI(直接投資)を減らし、多角的なサプライチェーンを構築する機運が高まるだろう。
 保護貿易主義への回帰が加速する可能性もある。各国がサプライチェーンの安定を正当化するために国内拠点を増やそうとし、国際化にブレーキがかかる。こうなると欧米が最大需要先の自動車、大型バイクを生産する本県への影響も大きいだろう。

 ■各中央銀行や政府対応への評価は。
 世界の各中央銀行があうんの呼吸で連携し、日本政府も大規模なサポートをする体制ができたのは評価できる。リーマン・ショックの経験が生きた。これまでは「遅すぎるし、少なすぎる」のが常だったが、以前よりは飛躍的に早い。
 ただ、日本のリーダーの発信力は弱過ぎる。日本は情報を出し惜しみ、確定値や決定案を出すまで発信が遅れがちだが、危機管理で重要なのは迅速な情報公開。うわさやデマを含めた大量の情報が氾濫する「インフォデミック」により、信頼性の高い情報が得にくくなる二次災害を防ぐためにも、リーダーの迅速な発信力が不可欠だ。

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