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“流行”の日本史/静岡県立大・鬼頭宏学長【感染症を知る】

(2020/4/20 11:00)
都道府県別 人口密度と感染者数
都道府県別 人口密度と感染者数
人口10万人当たり死亡数の月別変化
人口10万人当たり死亡数の月別変化

 感染症への対応は古今東西の人類史において、古くて新しいテーマだ。鬼頭宏学長(歴史人口学)は、過去の感染症流行が社会構造変革の契機にもなったと指摘する。 

 ■日本人と感染症の関わりは。
 各時代の要所要所で感染症の洗礼を受けている。多くの場合は、海外との交流が深まった時期だ。
 縄文時代後期には、中国から稲作文化とともに結核が入ってきたとみられる。小山修三国立民族学博物館名誉教授の推計によると、縄文時代中期の日本の人口26・1万人が晩期は7・6万人に落ち込んだ。気候変動の影響もあるだろうが、感染症が要因という仮説も大いにあり得る。

 ■記録に残る最も古い日本の感染症とは。
 平安時代の勅撰[ちょくせん]史書の続日本紀に天平7(735)年の天然痘流行について記述がある。エンドウ豆のようなものが皮膚に出て多くの死者が出たことが書かれている。
 天平9(737)年にも天然痘が流行し、筑紫(現福岡県)から入った。この時期は伊豆、駿河など静岡県内にもまん延した。
 歴史人口学者のウィリアム・ウェイン・ファリスの試算では、8世紀初めの人口約600万人が、10世紀半ばには約500万人に減っている。天然痘が人口を減らした要因の一つとみていい。
 ファリスは8世紀の天然痘による死者について、少なく見積もって全人口の25~35%としている。14世紀欧州のペストより高率かもしれないという。

 ■近世の代表的な感染症といえば。
 江戸時代から明治時代にかけて何度か、コレラが爆発的に流行した。最大規模は安政5(1858)年。長崎に入港した米国軍艦の乗組員が細菌を持ち込んだ。江戸市中の寺院の過去帳によると、7~9月に23万~26万人以上が亡くなっている。前後の期間も合わせると死者は30万人を超えたと言われている。
 注意したいのは、感染症と人の動きの関係だ。18世紀は地域間貿易が発達し、お伊勢参りに代表されるように旅行が大衆化した。江戸時代のコレラは東海道など街道の発達が流行を増幅させたと言える。人々の交流が活発化し、パイプが太くなったことがわざわいした。
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、世界の交通網発達と関係しているとされる。江戸時代のコレラ流行と同じ側面がある。

 ■感染症による死者と季節の関係性は。
 月別の総死亡率を比較すると分かりやすい。1900年前後は8、9月に高い山がある。コレラや赤痢をはじめとする細菌性の感染症が原因。この夏季の山が時代が進むにつれてどんどん低くなり、近年はグラフの形がスープ皿のようになった。
 月別の変動をみると、時代によってどんな亡くなり方をするかが分かる。また感染症をいかに克服してきたかも分かる。医療の発達、消毒した水道の普及、衛生思想の広まりが後押ししたのだろう。

 ■感染症は社会にどんな影響を与えるか。
 ペストが大流行した14世紀の欧州では、農耕地の面積に比して労働者が足りず、一部地域では農民の地位や賃金が上昇した。新型コロナ感染拡大も、私たちの暮らしを変える可能性がある。
 既にテレワークが急速に広まっているし、教育界でも遠隔授業に取り組まざるを得ない。児童生徒に一人1台のタブレット端末を設置する計画も前倒しになるかもしれない。
 国の科学技術会議が、高度な情報通信技術(ICT)に支えられた「ソサエティー5・0」を目指すとしているが、強力にプッシュされる可能性がある。

 ■人間は今後、感染症とどう向き合えばいいのか。
 医療技術が進化し、感染症の医薬やワクチンも次々開発されている。近年は生活習慣病や老化に伴うがんが死因に反映されていて、昔とは構成比率が変わってきている。
 だが、私たちが生物であることに変わりはない。病院、食料、医薬、衛生など近代的なシステムに支えられてはいるが、いつ新興・再興感染症にさらされないとも限らない。
 細菌やウイルスは人間の進化より速いスピードで変異し、より強いものが出てくる。歴史的な経験に学び、戦い方、付き合い方を考え続けなくてはならない。

 ■増加は人口密度に依存
 鬼頭学長が新型コロナウイルスに関する厚生労働省のデータ(3月28日までは患者数、29日以降はPCR検査陽性者数)を分析したところ、人口密度と患者・感染者数の相関関係が3月下旬から強まっていることが分かった。
 人口10万人当たりの患者・感染者数を都道府県別にみると、3月中旬までは発生事例が偶発的、散発的で大都市圏と地方に有意な差がない。ところが全国に感染が拡大し発生県が増加するに従って、東京都、大阪府、神奈川県など高人口密度エリアの患者・感染者数の割合が高まっていく。
 鬼頭学長は「新型コロナウイルス感染症の流行は人口密度依存的なのは明らか。感染拡大防止に向けた危険地域との行き来の禁止、いわゆる“3密”の回避は正しい方策だ」としている。

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