街の本屋巡りに新たな形 各店独自の「御書印」集め、参加店増加

 書店の店構えや郷土の名所をかたどったはんこに、書店が選んだ一文を添えて―。書店独自の「御書印」を集められるプロジェクトが昨春に始まり、静岡県内でも参加店が増えている。今年1月現在、全国で234店が参加し、県内は14店で国内2番目の多さ。電子書籍やネット通販の広がりで閉店が相次ぎ厳しい経営が迫られる中、人と本を結ぶ新しい書店巡りの形を提案している。

文豪島崎藤村との交流から、小説の一文を紹介する谷島屋連尺店の御書印=浜松市中区
文豪島崎藤村との交流から、小説の一文を紹介する谷島屋連尺店の御書印=浜松市中区
静岡ゆかりの名所が描かれた吉見書店竜南店の御書印を紹介する柳下博幸店長=静岡市葵区
静岡ゆかりの名所が描かれた吉見書店竜南店の御書印を紹介する柳下博幸店長=静岡市葵区
文豪島崎藤村との交流から、小説の一文を紹介する谷島屋連尺店の御書印=浜松市中区
静岡ゆかりの名所が描かれた吉見書店竜南店の御書印を紹介する柳下博幸店長=静岡市葵区

 御書印は、寺社での御朱印集めをヒントに、小学館パブリッシング・サービス(東京)の小川宗也さん(50)らが考案した。店頭で声を掛けると、初回は無料の御書印帖(先着順)を受け取れ、200円で押印。50カ所の印を集めると特典がもらえる。
 昨年6月に加わった谷島屋(本社・浜松市中区)は2店舗で発行している。連尺店(同区)は明治初期の趣ある外観を描いた版画をはんこに選び、島崎藤村の小説「新生」から「今日まで自分を導いてきた力は、明日も自分を導いてくれるだろう。」の一文を入れる。1938年に書店の看板文字を島崎に依頼した経緯から同社営業本部の野尻真さん(47)が「先が読めない時代だからこそ前向きになれる、心に残るものを探した」と話す。
 静岡市内で2店舗を展開する吉見書店は、駿府城巽櫓(たつみやぐら)と徳川家康像、安倍川と富士山をはんこのモチーフに、芭蕉の句とちゃっきり節の一節を選んだ。創業者が駿府城内にあった静岡学問所教授から書籍商を始めた縁も込めたという。竜南店の柳下博幸店長(53)は「お客さんとの会話が弾む。地元の歴史を見直す機会になれば」と期待する。
 御朱印や、城跡を巡る御城印も御書印巡りを後押しする。掛川市の高久書店には県内外から掛川城の御城印とともに求めてやって来るという。小川さんは「街の本屋さんは地域文化の拠点。新たな魅力として後押していきたい」と語る。

 <メモ>全国の新刊書店でつくる日本書店商業組合連合会(東京)によると、2000年に9400店あった加盟店は20年4月現在、3千店を切った。県内も355店から119店と3分の1に減少し、書店を取り巻く環境は厳しくなっている。

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