発声最小限、工夫の舞台 静岡SPAC、7カ月ぶり公演へ
静岡県舞台芸術センター(SPAC)が、7カ月ぶりの公演に向けて準備を進めている。新型コロナウイルス対策を講じた稽古と合わせ、劇中でも発声を最小限に抑える工夫を施す。2作品を皮切りに公演計画は具体化し、稽古場に活気が静かに戻っている。
SPACは2月末にコロナ拡大を受けて公演を打ち切り、ゴールデンウイークに予定していた「ふじのくに→←せかい演劇祭」の上演作など10作品を中止した。公演料など約1300万円の収入を失う中で、電話での朗読サービスなどコロナ禍の演劇の役割を探ってきた。
約2年ぶりの再演となる「妖怪の国の与太郎」は、30日に中高生対象の招待公演がスタートする。歌や踊りがにぎやかな物語は、登場人物のせりふの大部分を2人の語り手だけが担う仕組みに切り替えた。アクリル板を立てたブースの外に、個性的なマスク姿の妖怪たちが登場する。
相撲の場面は組み合わずに成立させ、消毒液をさりげなくまく描写を組み込むなど遊び心も込めた。制作スタッフは「コロナ対策に縛られるのではなく、意味を持つものとして生かした」と話す。
10月に一般公演が始まる「みつばち共和国」は、出演俳優がせりふを事前に収録。フランスの演出家がオンラインで立ち会い、舞台をイメージしながら精度を高めている。
人形浄瑠璃を思わせる発声の切り離しは、伝統芸能を取り込むSPACおなじみの手法。宮城聰芸術総監督は、数々の疫病の流行を乗り越えてきた演劇の歴史を踏まえ「アイデアは古くからの演劇の中にあった。どんな演出になったか、劇場で確かめてほしい」と話す。
<メモ>「妖怪の国の与太郎」は、正直者が霊界で魂を探す道中をユーモラスに描く。中高生招待公演と合わせて、11月14日から掛川、静岡で一般公演。蜜蜂の生態を詩的に舞台化する「みつばち共和国」は、10月17日から静岡市駿河区の舞台芸術公園「楕円(だえん)堂」で。問い合わせはSPAC<電054(203)5730>へ。