子どものことは私が何とかしなければ……孤独と限界を感じるママに伝えたい、抱え込まない大切さ

「子どものことは、結局いつも私一人で抱え込んでいる……」。そんなふうに、孤独や限界を感じたことはありませんか―――。

女性が発症者の9割以上を占める摂食障害。静岡新聞のアーカイブから、これまで3回にわたり当事者たちの体験談を紹介してきました。

かつて摂食障害は、「母親の育て方や、母子関係に問題があるからだ」と誤解されていました。しかし、その見方は否定されつつあります。

専門家が指摘するのは、「子育ては母親がするべき」という、母親を縛り付ける社会構造です。「父親不在」など、周囲のサポートが得られない育児環境の中で、母親と娘だけが密室で向き合い続け、お互いに心身をすり減らしてしまう―――。特定の誰か一人が家事や育児をすべて背負い込む構図は、一部の家庭だけの話ではありません。

シリーズ最終回となる今回は、専門家やサポート団体(自助グループ)への取材をもとに、摂食障害が起きてしまう社会的な背景を紐解きます。どうすれば、親子を苦しめる「生きづらさ」から抜け出せるのか。摂食障害に悩む家庭だけでなく、子育てをしているすべての人にとって大切なテーマです。

自責に駆られる母。家庭という密室で続く、共依存という悪循環

過食嘔吐(おうと)をやめられない娘は母に不安やいら立ちをぶつけ、母は娘の言いなりになる。

「家庭という密室で、私たちは共依存の悪循環に陥っていた」。摂食障害者の親の自助グループぬくもり(静岡市)の水谷澄子代表(64)は、約10年前までの三女(35)との関係をそう振り返る。

母との関係や母の生き方にわだかまりを抱え、摂食障害を発症したと語る娘たちと、自責の念にさいなまれ「私が何とかしなければ」と奔走する母たち。一昔前まで、摂食障害は母子関係のゆがみが原因とされたが、現在は否定されつつある。

住吉病院(甲府市)の大河原昌夫副院長によると、本人の性格、学校や職場のストレス、家族関係のもつれなど、さまざまな要因が重なった時、苦しさを表現する手段の一つとして発症する。

その9割以上が女性。食糧が不足する地域で発症は見られないため“やせ”をたたえる社会的価値観が大きく影響しているとされる。

それでもなお、この病気の背後に“母娘”の葛藤が浮かび上がるのはなぜか。

ライフステージで選択を迫られる女性たち。母親の生きづらさは娘に伝播

日本摂食障害学会評議員の中村このゆ追手門学院大教授(臨床心理士)は「母娘問題の本質は、母個人だけでなく母を取り巻く社会構造にもある」と指摘する。

高度経済成長期以降、家族は“女は子育て、男は仕事”という役割に縛られてきた。女性は家庭を優先するよう求められ、結婚や出産時には仕事の継続などあらゆる選択を迫られる。

母の不満は、同性である娘に伝わりやすい傾向がある。娘は母から「女性はどうあるべきか」を学び、そこに共感や息苦しさといったさまざまな感情を抱く。

娘の治癒を求めて医師のもとを訪れるのも自助グループに参加するのも、大半が母親。「医療者には母の心理的な問題が目につきやすい。カウンセリングをすると母自身に、夫や両親、義父母との葛藤が潜んでいることが多い」と中村教授。

まず母親が落ち着き、娘との密着関係を解くことが回復への一歩という。その上で「父親の治療参加が回復を早める」と話す。

病の背景を問わず当事者に共通することとして、中村教授は「複数の要因が掛け合わさって発症する代わりに、一つでも要因をゼロに近づければ症状は治まる」と説く。

当事者の根底にあるのは「私なんてだめだ」と自己を否定する怒りの感情。怒りが暴力などの形で外へ向かわなければ、拒食や過食の方法で自らの体を攻撃する。怒りを解きほぐすと、大抵は“悲しみ”にたどり着くという。

「本人の悲しみやつらさを受け止め、共感する誰かが必要」。家族だけでなく、医師やカウンセラー、自助グループの仲間といった第三者が支えになる場合もあれば、信頼できるパートナーとの出会いが転機になることもある。

“ベクトル”を自身に向けることから始まる。“楽”になる過程こそ回復の道

三女の発症から10年余り。水谷代表は「このままでは一家心中してしまう」と1人で専門病院に駆け込んだ。「お母さんも鬱(うつ)の手前」。医師に告げられ、娘ばかりを治そうとしていた“ベクトル”を初めて自分に向けたことが、親子が快方に向かう一つのきっかけとなった。

水谷代表は、かつての自分のように疲弊していく母親を何人も見てきた。しかし家族が疲弊するほど回復は遠のく。家族一人ひとりが“生きづらさ”を語り合い、ありのままを受け入れ、それぞれが新しい生き方をつかんで“楽”になる。「回復とは、その過程だと知ってほしい」と訴える。

(伊豆田有希が担当しました)

「ぬくもり」の会に集う母親たち。開催日を平日から日曜に替えると、1、2人の父親も参加し始めた=静岡市内


2015年09月25日<母と娘の再出発~摂食障害乗り越えて(4完)=「父親不在」の育児 女同士疲弊 皆で語り合い、心ほぐす>のタイトルで静岡新聞夕刊「こち女(じょ)」欄に掲載した記事を再掲しました。肩書や年齢なども掲載当時のままです。

「こち女」は「こちら女性編集室」の略称です。女性活躍推進の機運が高まり始めた2014年10月から2022年3月まで静岡新聞夕刊の特集面を中心に展開しました。

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