「ちゃんと育てなければ」という使命感がわが子を追い詰める…厳格な家庭で連鎖した「生きづらさ」

「ちゃんとした子に育てなければ」という使命感が、知らないうちにわが子を追い詰めていませんか―――。

静岡新聞のアーカイブから、ママ読者の反響が特に大きかった連載の第3回を紹介します。今回は、中学2年でダイエットを始め、摂食障害を発症した保育士の女性の体験談です。背景には、厳格な家庭環境がありました。

親から子へ引き継がれる「生きづらさ」の連鎖と、母から離れて初めて気付いた親の愛。すれ違い続けた母娘が、本音で語り合えるようになるまでの話です。

自分が親からどんなふうに育てられたか、そしてわが子にどんな言葉をかけながら育てるか、見つめ直すきっかけになるかもしれません。

心の空洞を埋めたい…承認欲求の果てに

静岡市の保育士由香(32)が摂食障害を発症した引き金は「自信を持つために始めたダイエット」。当時中学2年。同級生から「デブ」とからかわれていた。拒食はエスカレートし数カ月後、過食嘔吐に移った。高校1年のころ、“食べ吐き”が「心の中にある空洞を埋める作業」にすり替わっていることに気付いた。

その“空洞”は何か。精神科に通ったり文献を読みあさったりするうちに「人に褒められたい、認められたい」という欲求が満たされていないことが原因と考え始めた。

家庭の中で、父の存在感は薄かった。高校1年の時に両親は離婚。順調に人生を歩む兄には劣等感を抱いていた。母の陽子(62)はこの世で最も「自分の存在価値を認めてほしい人」だった。

学校を休ませない、褒めない、厳格な母

その母は、風邪をひいても学校を休ませない。テストで90点を取っても褒めてくれないのに、平均点以下だと怒鳴られた。由香の誕生日プレゼントは、母の好みで選ばれた。「大人の都合で我慢させられるか、よその子と比較されるか。どちらかの記憶しかない」

母に対しても友人に対しても「どうすれば好かれるのか」と、相手の顔色や声音ばかり気にするようになった。「自分を押し殺した生活がたぶん、摂食障害という形で爆発した」と、由香は語る。

一方、陽子は過食嘔吐をする娘の「悪魔のような姿」に途方に暮れ、その「無意味」な行動に腹を立てていた。やめさせようとすれば、由香は自傷に走った。「摂食障害は不安定な心の現れ」と受け止められるようになったのはここ数年だ。

陽子自身も厳しい家庭で育ち「遊ぶことや楽しむことに罪悪感がつきまとう人生」を歩んできた。由香を「人前に出しても恥ずかしくない子」にしつけようとした。娘の心に積み重なる不満に気付かず、結果として自分が親から押しつけられた“生きづらさ”を、娘にも引き継がせてしまった―。そんな自責の念がぬぐえない。

由香は母との暮らしに行き詰まった29歳の時、ワーキングホリデーでカナダへ飛び、保育士資格を生かしてベビーシッターをした。勤務先で、がんを患いながらも我が子を一番に気遣う母親の姿を見て、ふと「母にもこんな時があったのかな」との思いがよぎった。短大を出ても安定した職に就けなかった由香に、母は経済的に援助をしてくれた。感謝の気持ちが芽生えた。

緊張し続けていた心を解きほぐした、父母の変化

帰国後の2014年4月、保育園に就職した。過食嘔吐は20歳の頃から辛うじて抑えられている。しかし今も胃腸が弱く、固形物を控えるなど、食事の内容や時間に気を使う。

それでも摂食障害になったことで、陽子とは深い心の内を見せ合い、生き方について本気で意見を交わす仲になった。陽子は最近「もっと楽しんで生きることが私にも必要」と口にする。週1回、喫茶店で会う父は、家庭にいた頃とは別人のようによく笑い、よくしゃべる。そんな両親の変化は、由香に「緊張し続けていた心を解きほぐすような安心感」を与えた。

過食嘔吐に代わって心の“空洞”を満たすすべは、いまだに見つからない。人から物をプレゼントされるなど、目に見える形で与えられることでしか満足できない。ただ、いらつきや悲しみといった感情は一定のところで抑えられるようになった。「まだまだうまくは生きられないけど、人生の乗り越え方が見えてきた」と感じる。

(文中仮名)

メモ

極端に体重が落ちると、むくみや疲労などの身体症状だけでなく、鬱や不安、こだわりといった精神症状も表れる。浜松医科大精神科神経科の竹林淳和医師によると、適切な体重と食生活を取り戻すための指導が治療の第一歩。並行して、病気の理解や対人関係の問題解決に向けた精神療法を行う。体重が回復しても、心の回復にはさらに数カ月から数年の治療が必要。

由香(左)と散歩する陽子。「親には明かさなかった深い胸の内を、由香とは語り合う仲になった」=静岡市内


2015年09月24日<母と娘の再出発~摂食障害乗り越えて(3)=離れて気付いた親の愛 厳しい家庭、“生きづらさ”連鎖>のタイトルで静岡新聞夕刊「こち女(じょ)」欄に掲載した記事を再掲しました。肩書や年齢なども掲載当時のままです。

「こち女」は「こちら女性編集室」の略称で、女性活躍推進の機運が高まり始めた2014年10月から2022年3月まで静岡新聞夕刊の特集面を中心に展開しました。

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