【静岡市美術館の「わたしたちのルノワール 日本が愛した、幸せの画家」展】「わたしのルノワール」を見つけてほしい

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は9月22日に静岡市葵区の静岡市美術館で開幕した「わたしたちのルノワール  日本が愛した、幸せの画家」展を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

ルノワール『赤い服の女』

展覧会で作品に「おかえり」とつぶやく。怪しさ満点だが、そう言いたくなる作品に複数出会った。19世紀末から20世紀初頭の美術ムーブメント「印象派」の作家の中で随一の人気を誇る「ルノワール」がテーマだから、静岡市美術館を含め、各美術館で作品を見る機会は多い。今回はそうしたうれしい再会にあふれていた。多くの美術ファンが、同じ感慨を味わったのではないか。

ルノワール『ムール貝採り』

例えばルノワール『ムール貝採り』。海沿いの町に暮らす家族の日常を、細い筆を多用して描いた作品は、2010年の静岡市美術館開館記念展「ポーラ美術館コレクション展 印象派とエコール・ド・パリ」に出品されていた。

静岡市美術館で言えば、本記事冒頭に掲げた『赤い服の女』は2024年の「珠玉の東京富士美術館コレクション 西洋絵画の400年」以来の同館訪問。所蔵する東京富士美術館のメッセージによると、この絵は1989年に同館に来て以来、アジア、欧州3カ国・地域をはじめ、国内の29都道府県46会場で展示されたという。「旅するヒロイン」との記述はだてじゃない。

まだある。写真撮影禁止エリアにある児島虎次郎『芝の上』は2015年の「大原美術館展 名画への旅」で静岡市美術館に来ている。陽光の下、和装の若い女性2人が美しい野原に座って本のページを繰る、目がくらむような作品だ。

ルノワール『アルジャントゥイユの橋』

静岡市美術館以外でお目にかかった作品もある。ルノワール『アルジャントゥイユの橋』は静岡県下田市の上原美術館所蔵だが、筆者はこれを現地で見ている。さらに言えば、現同館副館長の土森智典学芸員に本作の解説を賜ったことがある。2021年の衆院選のさなか、「選ぶを描く」というタイトルで、芸術作品を通じて「選挙とは」「民主主義とは」を考えようという、かなりむちゃくちゃな企画だった。

土森さんは1873年のこの作品に、帝政と共和政の間で揺れ動くフランス社会と、そんな社会にルノワール、モネ、ピサロら印象派の画家たちが自分たちの価値観を突きつける姿を見いだした。「何かを実現しようと思ったら、自分で考えて物事を選び取っていくことしかできない」というメッセージをすくい取った。さすがだと思った。

ということで、本展のタイトル「わたしたちのルノワール」は、まさに言い得て妙。音楽の世界ではよく、「わたしたちの○○」というフレーズを使うが、美術では成立しにくい。ただ、フランスのみならず、特に日本で幅広い人気を誇るルノワールであれば、この問いかけが成立する。

懐メロを聴いたときと同様に、かつて見た「あの絵」「この絵」が目の前に再び現れたとき、観覧者は当時の自分を思い出す。本展の、特に第4章はこれでもかと言わんばかりに日本各地から集められたルノワールの作品が並ぶ。ルノワール、ルノワール、ルノワール。期待を裏切らない温かさと華やかさ。ルノワールは自分が何を求められているか、よく分かっていたのではないか。

観覧者それぞれが「わたしのルノワール」を見つけてほしい。

<DATA>
■静岡市美術館「わたしたちのルノワール  日本が愛した、幸せの画家」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階 
開館:午前10時~午後7時
休館日:毎週月曜 、10月13日(火)。10月12日(月・祝)は開館
観覧料(当日):一般1600円、高校・大学生、70歳以上1200円、中学生以下無料
会期:11月15日(日)まで

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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