【「第8回熱海未来音楽祭 2026」プロデューサー巻上公一さんインタビュー〈上〉】9月26日はムックリ(口琴)の演奏を楽しむ。南インドの古典劇も

音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)がプロデュースする、「即興」をキーワードにした音楽とパフォーミングアーツの祭典「第8回熱海未来音楽祭 2026」が9月26~27日、熱海市各所を舞台に開かれる。今年注目の演目や出演者について、巻上さんに聞いた。全2回の第1回は26日のプログラムについて。
(聞き手=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

熱海未来音楽祭のプロデューサーを務める巻上公一さん 

――今年の熱海未来音楽祭は「謎を受け入れる音楽は文化の帆」を掲げています。「ジャンルに当てはまらない、その場でしか生まれない音楽を街と共に作り上げる音楽祭」とも書かれています。19世紀英国の詩人ジョン・キーツが「分からない」をそのまま受け入れる力を提唱したことによるものだそうですね。

音楽祭全体としてそれを念頭に置こうと。「謎を謎のまま受け入れる力」については今、「ネガティブ・ケイパビリティ」という英訳で、ビジネス書にもよく取り上げられているようですね。書店に行ったらそうしたタイトルの本がたくさんあって「流行っているんだ」と気付きました。

――「熱海未来音楽祭」自体、最初からそのような雰囲気ですよね。今年も2日間の開催ですが、初日の26日の注目点を教えてください。

口琴です。昨年、北海道で行われた口琴のフェスティバルにも出演されていた郷右近富貴子さんと、床絵美さんのデュオ「Kapiw&Apappo」が来てくれます。

姉妹ユニットの「Kapiw&Apappo」

――北海道のフェスティバルには巻上さんご自身も出演していました。かなり前からヒカシューなどの演奏に取り入れていますが、改めて口琴の魅力はどんなところでしょうか。

持ち歩けるシンセサイザーですよね。ポケットに入るシンセみたいなもの、しかも電気がいらない。口の中だけを使って音楽を奏でるわけです。世界最古の楽器とも言われていますね。著名な作曲家の人、例えば武満徹なんかも「これがあれば何もいらない」と言っているぐらい。現代音楽の人たちの間でも口琴ブームがあって。高橋悠治もフィリピンの竹の口琴をサンプリングで使ったりしています。

――口琴のフェスティバルはどんな雰囲気でしたか。

26カ国ぐらいの人が集まっていました。口琴奏者、口琴ファン、そして口琴の制作者が一堂に会する、またとない素晴らしい機会でした。情報交換、演奏方法の更新。驚くべき文化交流が生まれていましたね。

――郷右近さん、床さんとはその時に初顔合わせでしたか。

それ以前から知っていました。1995年ごろにオーストリアのモルンで口琴フェスティバルがあって、お二人のおばあさんを含めた、アイヌの 5人のムックリ(口琴)奏者が出演していた。その時に僕がいろいろお手伝いしたんです。それ以後、阿寒湖の「まりも祭り」に呼ばれて演奏したりするようになって。(ロシア連邦)サハ共和国の口琴奏者と一緒に行った道東のツアーに参加したこともあります。

――26日はお二人のワークショップがあり、巻上さんとの演奏もあります。即興になりますか。

テーマを決めた即興になるかもしれません。ウポポ(アイヌの歌)も多分やると思います。彼女たち、とんでもなくうまいんですよ。いろんなテクニックを持っています。「ビヨンビヨン」という音だけではない。

――ムックリの演奏と言えば、個人的には単独で鳴らすようなイメージがあるのですが、アンサンブルになるのでしょうか。

1人がソロを取ったりバックに回ったり。それが自然に行われることになると思います。

――26日には口琴とパーカッションのユニット「蜂と瓜」も出演します。どういうユニットですか。

ハチスヒロミさんは、その場でルーパーを使って口琴の音をループさせたり、変調させたりします。エレクトロニクスを使った新しい口琴の演奏の形。織本卓さんのドラムと相性がいいと思います。エレクトロニックでプリミティブな、ダンスできるような音楽。踊れる口琴サウンドです。

ミラーヴをバックに演じる入野智江ターラさん

――この日の最終演目は「南インドの古典劇」ということなんですが、どういう内容ですか。

南インドのケーララ地方で演じられきた古典劇「クーリヤッタム」に属する演劇の一つです。2000年近く前から伝わる演劇で、ミラーヴ(壺太鼓)に乗せて女優が一人でさまざまな役を演じ分けながら表現します。言葉のない、身体による語り物です。

――演者の入野智江ターラさんはどんな方でしょうか。

日本人で唯一の「クーリヤッタム」の劇団員です。入野さんは音楽関係でも非常に有名で、お父さんは現代音楽の作曲家の入野義朗さん。お母さんも作曲家の高橋冽子さん。彼女自身は南インドの古典劇が専門。音楽も非常に詳しい、面白い人なんです。

〈第2回に続く〉

<DATA>
■ 第8回熱海未来音楽祭
※主な演目
▼9月26日(土)
ムックリワークショップ
時間:午前11時~正午
会場:起雲閣音楽サロン
講師:郷右近富貴子、床絵美

ライブ「口琴の響く日①」
時間:午後1時~午後2時
会場:起雲閣音楽サロン
出演: ムックリデュオ〈Kapiw&Apappo〉郷右近(ごうこん)富貴子、床(とこ)絵美(アイヌムックリ奏者)+巻上公一(声)

ライブ「ノマドダンスフェス/Nomad Dance Fest」
時間:午後3時~午後4時半
集合場所:EOMO store(集合時間等はメールで連絡) 
出演:多田葉子(sax)、アナーキー吉田(ドラマー)、四家卯大(チェロ)、梶原未由(ダンス)、横山彰乃(ダンス)、亞弥(ダンス)

ライブ「口琴の響く日②」
時間:午後5時~午後6時
会場:EOMO store 
出演:口琴とパーカッションのユニット〈蜂と瓜〉=ハチスヒロミ(口琴)、織本卓(パーカッション)

ライブ「南インドの古典劇   目と手と声の神話」
時間:午後7時~午後8時
会場:起雲閣音楽サロン 
出演:入野智江ターラ
演奏:足本みよ子(ミラーヴ)、岩田豊美(ミラーヴ)、畑板智保(ターラム)

▼9月27日(日)
※主な演目
舞台美術ワークショップ「〈謎の舟盛り〉」
時間:午前10時~午前11時
会場:Eomo storeアトリエ   
講師:長峰麻貴(舞台美術家)

熱海未来音楽祭アートパレード
時間:午前11時15分~正午
場所:EOMO storeからサンビーチまで  
出演:多田葉子、佐藤正治ほか

「顔は語る。ナンギャールクートゥ〈表情のワークショップ〉」
時間:午後1時~午後2時
会場:起雲閣和室 
講師:入野智江ターラ

ライブ「打音は海峡を越え、大陸を越え」
時間:午後2時半~午後3時半
会場:起雲閣音楽サロン   
出演:Sun Mi Hong(ドラムス/韓国・オランダ)、纐纈之雅代(サックス)、巻上公一(声、テルミン他)

トーク「町田康×巻上公一『パンク/ニューウェーブ妄想史』」
時間:午後3時50分~午後4時40分  
会場:起雲閣音楽サロン
出演:町田康(作家・音楽家)、巻上公一(音楽家)

ライブ「ジャズ祭文 ― 即興無双 坂田明(sax)ライブ」
時間:午後6時~午後7時30分  
会場:起雲閣音楽サロン
出演:坂田明(サックス)、佐藤正治(ドラムス)、巻上公一(声、テルミン他)
オープニングアクト〈巻上公一と熱海サンビーチ〉=巻上公一(ボイス、テルミンほか)、坂口光央(シンセサイザー)、Samm Bennett/サム・ベネット(from USA/ボーカル、パーカッション)

■チケット料金など詳細は公式サイト(http://www.makigami.com/atamimirai.html#schedule)を参照。参加申し込み、問い合わせは電話(080-5447-5151)、メール(makigamioffice@gmail.com)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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