【静岡市清水文化会館マリナートの「プレバト才能アリ展」】覆面レスラーが「宙に舞う」。今なお記憶する級友の名句

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は、静岡市清水区の清水文化会館マリナートで始まった「プレバト才能アリ展」を題材に。
(文と写真=アナウンスマイスター・野路毅彦)

生まれ育った京都市北区では、毎年、地域の小学生が書いた優秀な作文を冊子にして、児童ひとり一人に配った。私は一度だけ、その文集に掲載されたことがある。傑作が書けたからではない。学級運営の方針にチームワークを掲げる担任が、クラス全員で文集に載ることをもくろみ、ボクらに俳句を作らせた。五七五の下に名前を記しても一人一行なので、全部で四十数行。限りある紙幅を圧迫しない。20代の青年教師の奇策は実を結んだ。

私自身がどんな句を詠んだか、さっぱり覚えていない。きっと苦手だった作文同様、どこかから借りてきたようなフレーズを並べたのだろう。自分の感動に根ざしていないから、当然すぐに忘れてしまう。

でも、同じクラスのY が詠んだ俳句は今でもそらで言える。「夏の夜ミル・マスカラス宙に舞う」である。ミル・マスカラスは、メキシコ出身の覆面レスラーで、日本でも人気だった。フライング・クロスチョップや、ダイビング・ボディアタックなどの空中技を得意とした。だから「宙に舞う」。

文集に句が載った当時、ボクらはYをからかった。「俳句になんでプロレスやねん!ふざけてる」「七文字が思いつかんかったから、ミル・マスカラスにしたんやろ!」と揶揄し、しつこくツッコんだ分、あとあとまで句は記憶に残った。

9月5日、静岡市清水文化会館マリナートで「プレバト才能アリ展」が開幕した、初日から大勢が訪れ、芸能人による水彩画・色鉛筆画の精緻さに感心する声が上がっていた。 

俳句の才能を査定するコーナーも「プレバト」の柱だ。出演者が句作に挑戦し、俳人・夏井いつきさんの評価と、場合によっては厳しい添削を受ける。

番組を見ていたら、お笑い芸人・千原ジュニアさんの句に「750ccのアクセル戻し紅葉踏む」というのがあった。わびさび世界の外にあると思われた大型バイクを俳句に持ち込み、しかも750ccと書いて「ナナハン」と読ませるツッパリロックバンドみたいな荒業も用いている。それでいて、夏井先生には上出来と評された。

これが「アリ」なら、級友Yの句は、実は、いい線まで行っていたのではないか。マッチョながら身軽に飛ぶレスラーによる、試合ハイライトの興奮がスローモーションのように切り取られている。難を言えば「夏の夜」が平凡か。夕飯を済ませた夏の夜8時から、茶の間でテレビ観戦している状況を盛り込みたい。「瓜食えばミル・マスカラス宙に舞う」とすれば、その様子がうかがえるはずだ。

私は、今でもどこかから何かを借りてきている。

<DATA>
■静岡市清水文化会館マリナート「プレバト才能アリ展」
住所:静岡市清水区島崎町214 
開館:午前10時~午後5時
観覧料(当日):一般1500円、中学・高校生1200円、小学生700円
会期:9月27日(日)まで ※会期中休館日なし

「プレバト才能アリ展(静岡)」の特設ホームページ>>

閉幕間際は混雑が予想されますのでお早めのご来場をおすすめします。平日のほうが比較的ゆっくりご鑑賞いただけます。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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