【『温泉シャーク2 九州大決戦』の井上森人監督インタビュー 】 前作を上回る大量のサメ、サメ、サメ―。「ジャンル映画の極み、みたいなところがあります」

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は9月4日に公開された、熱海市の映像製作会社「PLAN A」(永田雅之代表)による『温泉シャーク2 九州大決戦』の井上森人監督のインタビューをお届けする。2024年の前作『温泉シャーク』は、熱海市ならぬ暑海(あつみ)市の温泉各所から現れる凶暴な古代ザメが人を襲うという奇想天外な物語が世界中から注目を集めた。製作前のクラウドファンディングで1000万円以上が集まったことも話題になった。

続編は、こちらも温泉で知られる熊本県の小国町が主な舞台。大量のサメが人間の生活を脅かすという「サメ映画」のメインフレームは維持しつつ、あくの強い新旧の登場人物が複線的に物語を作り出す、骨太な作品に仕上がった。前作に続いて脚本も担当した井上森人監督に、大幅に拡張された『温泉シャーク』の世界観を聞いた。

(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充、場面写真は全て『温泉シャーク2 九州大決戦』から(C)PLAN A)

インタビューに応じる井上森人監督(右)

「サメ映画ファンのために」作ったら、全世界で受け入れられた

――2024年7月5日公開の映画「温泉シャーク」は全国約50館でロングラン上映されただけでなく、北米の200館など世界各国で上映されました。改めてこの現象を振り返ってみてどう感じますか。

「日本のサメ映画ファンのために」というところから製作を始めたんですが、思ったより多方面に広がりましたね。映画館で客層を見たら、本当に老若男女いる状態だったので驚きました。連日 SNSでも話題にしてもらって。こんなに受けるんだ、みたいな感じでした。

――予算が少ない企画ではありましたね。

上映についても、最初は都内で 2、3館かなと思っていたんですよ。それがふたを開けてみたら最初から 10館。どんどん増えて 40館、50館。最初は、そんなにたくさん上映しても人が入るわけないだろうといった気持ちが強かった。喜びと怖さ、両方がありました。

――サメ映画ファン向けとのことでしたが、脚本が骨太で、 特撮への愛情も強く出ていて、個人的には本格派だと思いました。熱海でロケもしていて、静岡県民にとってはかけがえのない映画になったという印象です。

人が死ぬ映画ですし、怒られてもおかしくない企画なので、最初は地元の皆さんもちょっと「なんだよ」みたいな顔をされていた気がします。ただ、クラファンが盛り上がった時に「お祭りとして乗っかってもいいんじゃないか」と思ってもらえたのが大きかったですね。ちゃんと公開できて、一定程度受け入れられて、熱海に来るお客さんが増えたことで、多少還元できたと思います。

――監督を引き受けるに至った経緯は。企画・原案・製作の永田雅之さん(PLAN A代表)は、過去の私のインタビューに「2021年ごろに『温泉シャーク』の設定を思いついた。熱海の名物は温泉、海。海なら『サメ映画』だろう、という発想』と答えています。

全国自主怪獣映画選手権東京総合大会で優勝していたこともあり、 2019年から(毎秋熱海市で開催の)熱海怪獣映画祭に呼んでもらっていたんです。2021年に永田さんの家に何人かで泊まらせてもらった時に『温泉シャーク』の構想が出ました。その場でだいたい設定も思いついて。その後、シャークの前日譚のような作品『温泉防衛バスダイバー』がまずできた。この時に主演の藤村拓矢さんや音楽の神馬譲さんといった、シャークのスタッフがすでにそろっていたんです。「うまくいったし、じゃあいよいよシャークをやろうか」となりました。

温泉からサメが出る理由をちゃんと決めようと思った

――温泉の水脈を伝ってサメが行き来するというアイデアはどうやって生まれたのですか。

温泉からサメが出る理由をちゃんと決めようと話していました。サメが出る理由がないと、ほかの怪物でもよくなっちゃいますから。ずっと悩んでいたんですが、大学の後輩のスタッフに相談したら「サメって軟骨魚類だから体が軟らかいはず。(温泉の)パイプも通れるんじゃないですか」と言われて。

――この設定は完全に「勝ち筋」でしたね。

『温泉シャーク』はいろいろなところを褒めてもらえていますが、この設定があれば僕でなくても撮れると思います。

――脚本を書く前に設定を固めていったのですね。

決まっていたのは「海沿いの観光地の市長を主人公にする」「サメが出る理由を考える」「マッチョは出しとこう」の三つでした。三つ目については、予算がない中で考えたアイデアです。お金がなくてもできそうな展開を考えると、ムキムキのやつが殴り合うみたいな話に落ち着ければいい。

期待がこもった3000万円。プレッシャーと不安

――予算がない中でスタートしましたが、2023年6~7月のクラウドファンディングでは1000万円以上集まりました。

皆さんに『温泉シャーク』というムーブメントを楽しんでもらいたい、という思いでした。サメ映画なので、しっかりサメが出てきた方がいい。支援1口につき1匹サメを出すとお約束しました。そうしたら432口も集まった。だから映画では432匹以上のサメがちゃんと出ています。

――『温泉シャーク2 九州大決戦』では3000万円超が集まりました。 前回の3倍です。この反応についてはどのように感じられましたか。

前作は、タイトルのインパクト、「1口1000円の支援につき、映画に登場するサメが1匹増える」というバカバカしさ、怖いもの見たさで支援してくれた方が多かったと思うんです。今回は「観たらちゃんと面白かったぞ」と評価してくれて、期待を込めて3倍にしてくれたんだなと。めちゃくちゃうれしかった半面、前作で持てるものを全部出し切った自覚があったので、プレッシャーと不安もすごかったですね。

――前作とはスタート地点が違っていたのですね。

前作は「俺を見てくれ!」という一心で突っ走った作品でした。でも今回は「面白いから次も作ってよ」という期待の目線が最初からある。その状態でイチからリセットして映像を作るのは初めての経験でした。

特撮やサメ映画では王道の設定を持ち込んだ

――脚本も引き続き担当しています。今回は海なし県の設定で、K県湯国町のサメ伝説から物語がスタートします。前作の大成功を受けて、続編のロケーションや方向性はどのように決めていったのでしょうか。

熱海で撮影した方が圧倒的に楽だったんですが、もう一度熱海でやると(話が)ごちゃごちゃしてしまう。思い切り場所を変えないと(話が)できないぞと思ってプロデューサーに動いてもらったら、熊本県小国町から「うちでよろしければ」とお声かけいただきました。現地に行って観光協会の方に案内してもらったら、熱海とは違う温泉地としての個性がはっきり見えてきた。海がない山奥のロケーション。「前作と全然違うことができるぞ」と感じました。

――温泉の水脈を伝ってサメが移動する設定さえあれば、どこが舞台でも物語が作れるというのが強みですね。山の中という条件で、前作との差異をどう生み出そうとしましたか。

熱海との対比という意味で、山の中というのはベストでした。ただ、前作の要素を引き継ぎつつも、同じネタをやるわけにはいかない。勢いは残したまま、新しいことを提示したかったんです。小国町のロケーションは、その「同じことをやりつつ、違うことができる」という製作態勢がカチッとはまりました。

――前作との連続性も強く意識され、人気キャラクターが引き続き登場します。キャラの扱いとスケールアップの両立に苦労されたのでは。

「前作の人気キャラがすぐ死ぬ」という続編の展開がありますが、絶対にやらないと決めていました。前作の何が受けていたか、実感がありましたから。ただ、新主人公の魅力を立てつつ、前作の人気キャラたちを全員活躍させるとなると、一気に難度が上がるんです。映画をスケールアップさせながら新旧の要素を噛み合わせる作業は、パズルを解くような苦しみでした。

――前作を見ると、これ以上サメをたくさん出す方法はあるのだろうかと思いましたが、やり遂げましたね。

クラファンでサメを増やすお約束をしている以上、圧倒的に数を増やさなきゃいけない。そこで、特撮やサメ映画では王道の、ある意味で「よくある設定」を持ち込みました。ただ、実際に画面に映るサメの数は、僕が台本で想定していた数字より多いんですよ。CGスタッフのサービス精神の現れです。

特撮で撮ると現場のみんなの熱が入る

――新しい要素と言えば、柴田瑠歌さんが演じる女子高校生という存在がありますが、カーチェイス的なシーンもありましたよね。刀を使ったアクションも新鮮でした

カーチェイスだと思って(台本を)書いたわけではなく「崖落ち」をやりたかったんです。完全に筆が乗っていましたね。アクションに関しては「強い力を持つマッチョでも倒せない敵を、新主人公ならどう倒すか」という前作との対比を意識して組み立てました

――米軍の艦船が絡む展開には、ゴジラシリーズをはじめとするクラシックな特撮映画への敬意を強く感じました。

意識しなくてもそういう要素が出てしまうんです。そもそも巨大なサメが背びれを出して地面を泳ぐ描写は、約30年前の『ウルトラマンティガ』に登場したサメ型メカ怪獣が原点にあります。「あれをやりたい!」という。

――特撮を心底愛している人たちなりの作法がうかがえます。

特撮パートは(円谷英二監督ゆかりの)福島県須賀川市に1週間泊まり込んで撮影しました。CGも当然使いますけど、特撮で撮ると現場のみんなの熱が入るんです。その熱量がそのまま画面にも乗ってくるんですよね。

――『温泉シャーク2 九州大決戦』はどんな映画だと紹介しますか。

気軽に見てほしいとしか言えないです。『温泉シャーク』は、タイトルは変だけれど見に来たら意外と面白いという点で受けたので。今回もそれは変わりません。実はかなりちゃんと伏線を回収する作品になっています。

――先ほども話がありましたが、前作から明らかにスケールアップしてもいます。

今作は明らかに試写会の評価が前作より高い。前作がつまらなかった人に、むしろ見てほしいです。ただ「皆さんに受けようと思ったらこんな話にはしないな」という映画ではある。ジャンル映画の極みみたいなところがあります。

――『温泉シャーク3』『温泉シャーク4』はあるのでしょうか。

プロデューサーは「ベトナムで撮りたい」と言っています。もう国内の話としては行き着くところまで行ったという気持ちがあるので、『3』があるなら海外に出張しても怒られないだろうという思いもあります。ただ、サメが出てこない映画も 1回は作りたいなというのもあって。この4年間、大量のサメと向き合ったのでもうサメの顔は見たくないという気持ちもあるんです。僕は大学の演劇サークル出身なので、人間の会話劇を撮りたいですね。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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