【竹林亮監督『見えない娘 ーTHE INVISIBLESー』】伊豆半島をタクシーで南から北へ。家族「4人」の一風変わったロードムービー

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は8月28日から静岡市葵区の静岡東宝会館などで上映中の竹林亮監督『見えない娘 ーTHE INVISIBLESー』を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

静岡県ゆかりの映画『温泉シャーク』について書いたり語ったりする必要があり、「サメ映画」というジャンルについて改めて考えた。いわゆる『ジャンル映画』というのは大小いくつもあって、それぞれに根強いファンがいる。その中でも特に「サメ映画」はジャンルとしての強さがある。コンスタントに作品が提供されている点、国際映画祭が開かれている点などから、それは明らかだろう。

「透明人間」も一つのジャンル映画と言える。20世紀前半から米国で製作されていて、日本では戦後間もなくに円谷英二の特撮作品が人気を集めた。近年ではリー・ワネル監督の『透明人間』(2020年)が代表格か。いわゆる「ツウ」の映画ファンからも高い評価を得た。2026年にNetflixで配信が始まった片山慎三監督『ガス人間』も広い意味で言えば、「透明人間映画」の一角を占めるかもしれない。少なくとも1960年の原作『ガス人間第一号』はそんなニュアンスが強い。

「透明人間」よりも大きな塊のジャンル映画として「ロードムービー」というのがある。筆者はやはりヴィム・ヴェンダース監督を真っ先に思い出してしまうが、「ロードムービー」とうたっていなくてもロードムービーとして仕上がっている場合も多い。「ロードムービーファン」はもちろんいるだろうが、「サメ映画ファン」のような連帯感というか、同族意識はあまり感じられない。裏を返せば、それだけキャパシティーが大きいということだ。

『見えない娘 ーTHE INVISIBLESー』はこの二つのジャンル映画の掛け合わせ、という恐らく誰もやっていないことに挑戦している。「3姉妹の扱いに苦悩するシングルファーザー」という隠し味も加えているのがニクい。

3姉妹の末っ子が生まれながらの透明人間という設定だ。母親の星野こころ(映美くららさん)はすでになく、父親の星野学(毎熊克哉さん)が伊豆七島の神津島で漁師をしながら一人で子どもの面倒を見ている。学は末娘が透明人間であることを周囲にひた隠しにしているが、こころの母親で俳優の砂川エリ子(余貴美子さん)が体調を崩して入院し、家族「4人」で東京の病院まで見舞いに行くことになる。

神津島からフェリーで下田へ。下田からなぜかタクシーに乗って東京へ。三女が透明人間という一家の秘密を抱え、学はそれがばれないよう気を配るが、タクシーの車内という密室の中で、それがごまかしきれるはずもなく…。「見えない」はずの三女「ひかり」の実像が、道中の人々とのかかわりの中で浮かび上がっていく。

一行は道中で何度も「足止め」を食らう。その足止め場所はほとんど、静岡県民にとって見たことのある場所である。天城峠を越え、三島市内を富士山に向かい北行。清水町のおなじみの大規模ショッピングモールでは、一家に危機が訪れる。

ロードムービーのフォーマットや「お約束」が忠実に再現され、その中に「静岡」がカチッと組み込まれている。おのおののエピソードが過度に物語的な意味を主張していないのもいい。製作側に意図はないだろうが、結果的に静岡の、伊豆の風景がいいあんばいで頭に残るつくりになっている。

寺島進さん演じるタクシーの運転手が、さかんに『君といつまでも』を歌う。西伊豆町に縁の深い加山雄三さんに敬意を込めての選曲であろう。

<DATA>※県内の上映館。8月29日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
静岡東宝会館(静岡市葵区)
シネマイーラ(浜松市中央区、公開期間未定)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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