【第69回群像新人文学賞の永田修矢さん(静岡市出身)『骨と鎖』】「群像」2026年6月号掲載の作品をようやく読んだ。心の内に潜む暴力の衝動と、それを制御しようとする内的苦闘

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は「群像」2026年6月号に掲載された永田修矢さん(静岡市出身)による第69回群像新人文学賞受賞作『骨と鎖』を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

2024年の第61回文藝賞に選ばれた松田いりのさん(浜松市出身)『ハイパーたいくつ』に続き、静岡県出身男性の作品が著名な文学賞に選ばれた。とても喜ばしい。第69回群像新人文学賞選出が報じられたのは、ことし5月。『骨と鎖』を書いた永田修矢さんは2003年生まれの23歳で、同志社大文学部英文学科在学中という。

今回の同賞には2237編の応募があり、朝吹真理子さん、島田雅彦さん、藤野可織さん、古川日出男さん、町田康さん(熱海市)の5人が五つの候補作から受賞作を決定した。永田さんの作品は、冬島いのりさん(札幌市出身)の『夏蚕の翅』と同時受賞となった。

『骨と鎖』は小学校6年生の汰月と陸という2人の男の子が主人公。二人の視点を交互に使って物語が進む。彼らの周りにさまざまな登場人物が出てきて、だいたい中学2年生の冬辺りまでが描かれる。

小学生として最後の夏、自転車を走らせる二人。「綿菓子に似てるね」と雲を見て笑い合う。出だしはジュブナイル小説のようで『骨と鎖』という、硬質かつどこか傷みがつきまとうタイトルとは無縁に見える。

汰月と陸が訪ねる、コミュニケーションに難がある友人と彼を偏愛する母親。理科の授業でのカエルの解剖。汰月のおばあちゃんの死。汰月が陸に向ける特別な感情。不穏さはあるが「まあそういうこともあるだろう」というエピソードが積み重なっていく。

だが、決定的な転換がある。中学生だからというわけではないだろう。誰の心に芽生えてもおかしくない暴力の衝動と、制御しようとする内的苦闘。本作は、ミドルティーンの狭い人間関係の中における「それ」を生々しく描く。

同級生に「望月」姓がいる(静岡、山梨に特有の名字)。海浜地帯にある飲食店、アパレル、映画館などがそろった「十二階建ての大型施設」は、階数こそ異なるものの、静岡市民にとっては何となく「あそこかな」と思い当たる節がある。

ただ、作者は出身地の痕跡をできるだけ消そうとしているように感じる。畑があり海があり、ちょっとした歓楽街がある。イキった若者、ヤンキー的価値観の中学生がいる。作者は、日本中どこにでもあるような田舎の風景を背景に、物語を組み立てる。この手際が巧妙だ。

地方都市に住む者なら誰でも、本作が描く暴力の衝動と隣り合わせに生きていることが自覚できるだろう。自分の身の回りにあり得る未来かもしれないし、自分がその中心にいるかもしれない。大小の恐怖をはらんだ作品である。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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