覚悟と決意で切り拓いた第二のサッカー人生 若杉幸治(51)アンプティサッカー〜競技に懸けるそれぞれの物語 パラスポーツ選手の肖像シリーズ(3)<PR>

「進化は止まらない」

クラッチ(杖)で体を支えて走り込んだゴール前。逆サイドから鋭く飛んできたボールをかかとでトラップし、シュートに持ち込んだ。どよめく観客席。惜しくも枠は外れたが、「ナイスプレー」の声と共に大きな拍手が沸き起こった。

静岡県内初のアンプティ(切断障がい)サッカーチーム「ガネーシャ静岡AFC」の創設メンバーの一人で、フィールドプレーヤーとして活躍する若杉幸治(51、焼津市)の信条は「進化は止まらない」。30代後半から競技を始め、2度のワールドカップ出場を勝ち取ったレジェンドは、その言葉通り日々努力を積み重ね、昨日の自分を超えていく。

奪われた夢、どん底の日々 

若杉が25歳の時、大型トラックで東名高速道路を走行中に前方で起きたトラック事故に巻き込まれた。足を残すため、筋肉の移植や動脈のバイパス手術など1年半に20回を超える手術を受けたが、温存は叶わなかった。「何もかも終わったと思いました。自分は何もできなくなった、だから周囲は自分のために動いて当然だと思えた。見も知らぬ他人にも不遜な態度を取るようになりました」

若杉の青春はサッカーとともにあった。小学3年でサッカーを始め、中高、社会人サッカーでゴールキーパーとして鳴らした。事故当時は息子が生まれたばかりで、「一緒にサッカーをしよう」と当然のように夢を描いていた。「それからは、まさにどん底でした」。苛立ちから家族に辛くあたり、息子や事故後に生まれた娘がサッカーを始めると、些細な失敗に怒鳴り、理不尽な指導をした。この頃の若杉を息子は「最低の父親」と表現する。

中央が若杉選手

アンプティサッカーとの出会い

アンプティサッカーは、主に上肢や下肢の切断障がいのある選手が、クラッチと呼ばれる杖を使用してプレーするサッカーだ。転機は事故から十数年後。娘が所属していたサッカーチームの代表者からアンプティサッカーを紹介された。若杉の子どもたちに対する態度を傍らで見て、心配した末のことだった。「そんなものサッカーじゃない」。当初は反発したが、子どもの手前「自分自身が努力する姿を見せなければ」と思い直した。自分より年上の選手が自在にクラッチを操り、フィールドを駆け回る姿を目の前にすると、「俺だってできる」と闘争心に火が付いた。

アンプティサッカーでは、足を切断した人はフィールドプレーを担う。静岡県内にはまだチームがなかったため、神奈川県のチームに所属してゼロから足元を鍛えた。「体が動かず、クラッチを使って10メートルも走れない。マイナスからのスタートでした。でも、やると決めたからには引けなかった」。体を絞り、足元を鍛え、2014年、競技を始めてわずか1年で、ワールドカップ日本代表に選出される。この時の仲間とガネーシャ静岡の創設を支え、4年後も代表の座を射止めた。

進化を支える創造性と探求心

人並外れた努力に加え、プレーに対する探求心と創造性が若杉の大きな武器だ。 「健常者のサッカーにおける両足でのボールコントロールを、クラッチの支えと片足でどう再現するか。それを考え、実現していくのはすごく楽しい」と、常に新しいプレースタイルを模索している。

職業である金属加工の営業というバックグラウンドも生きる。若杉が使うのは、自らの手で製作した「世界最高峰の杖」。図面を引き、自社の技術で部品を作った。上部は軽くて丈夫なチタン、下部は転倒時に腕への負担を減らすために柔軟性のあるアルミを採用し、激しいプレーでもグリップエンドが抜けないよう内側に特殊な加工を施すなど、こだわりが細部にまで宿る。

家族の絆と次世代への継承

若杉の挑戦は家族の絆を結び直した。父の辛さを理解し、ひたむきにサッカーを続けた息子は、「いつかピッチで父と一緒にボールを蹴りたい」という願いを持ち続けていた。息子は今、父が所属するガネーシャ静岡のチームスタッフとして父を支える。若杉は「誇らしい最高の父親」になり、一度は諦めた「息子とプレーする」という夢も現実になった。

近年、チームにはホームグラウンドと呼べる施設ができた。静岡市清水区にオープンしたパラスポーツ優先施設「IAIパラスポーツパーク」だ。若杉は「練習場として使いやすいだけでなく、アンプティサッカーをはじめ様々なパラスポーツの大会やイベントの企画、発信など、競技の普及活動が何よりもありがたい」と喜ぶ。「自分たちの活動だけでは限界がある。大会でこれほど多くの観客に見てもらえるのは大きな励みです」

練習に打ち込む傍ら、自身を競技に導いてくれた恩人への感謝を込め、娘の出身チームでサッカーの指導を行うほか、自らの経験を通してパラスポーツの意義を発信する講演活動にも力を注ぐ。後進育成で強調するのは、「覚悟と決意」の重要性だ。「強くなるにはただ練習するだけでは足りない。やり抜くという覚悟と決意が必要だ」。その言葉の裏には、アンプティサッカーと出会うことで得た気付きがある。「足を失って何もできなくなったのではなく、自分が何もしなかっただけ。人生は自分次第。アンプティサッカーがそのことを教えてくれた」

「パラスポーツ選手の肖像」とは

静岡市清水区にあるパラスポーツ優先施設「IAIパラスポーツパーク」で活躍する選手たちの姿とそれぞれの物語を、全6回シリーズで紹介します。

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■IAIパラスポーツパーク
住所:静岡市清水区庵原町1210
駐車場、多目的トイレ、更衣室あり
電話:054-368-5750(10:00~20:30 ※月曜定休)

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詳しくはIAIパラスポーツパークHPをご覧ください
パートナー制度や応援寄付の詳細、問い合わせは応援パートナー募集ページへ

アンプティサッカーについて詳しくは競技紹介ページへ

大会イベント情報は公式インスタグラム(@iai.parasports)へ
シズサカ シズサカ

静岡のイベントや企業の動きを発信します。静岡新聞SBSの地域に根差した情報力を活かして企業・行政・教育機関をつなぎ、ビジネス機会と協業を創出するプラットフォーム「SHIZUCONE(しずコネ)」でも記事を多数公開中!

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