(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

旅行先で時間があるときは、地元のミニシアターや映画館を探してみる。映画館は書店と並ぶ、その町の文化拠点だから、どんな作品が上映されて、どんな人が来ているのかを眺めるのが楽しい。建築やたたずまいも、それぞれに味わい深い。
4年前は新潟県上越市の高田世界館は1911年設立の日本最古級の映画館。ここで『サバカン SABAKAN』を見た。昨年の春には長野県伊那市の「伊那旭座」を訪ねた。こちらもレトロな外観がすてき。同じ長野県の諏訪信仰をテーマにした『鹿の国』が上映されていて、タイミングの良さにちょっとした奇跡を感じた。今冬は山陰地方を巡り、いくつか目星を付けていたのだが、交通アクセスの問題で「鳥取シネマ」にしか行けなかった。古き良き時代の雰囲気がにじみ出ていた。
伊那市の「伊那旭座」(2025年5月)
ミニシアター探訪のガイドにしているのが2020年にフィルムアート社が出した単行本「そして映画館はつづく」である。全国の主要ミニシアターの支配人や責任者のインタビュー、各地の映画館の成り立ちや設備などを詳しく説明している。静岡県からは「静岡シネ・ギャラリー」(静岡市葵区)と「シネマイーラ」(浜松市中央区)が登場。金星シネマ(伊東市)はまだ設立前である。先日、京都市に1泊した。2日目の午前中に時間があったので、「そして映画館はつづく」が取り上げていた「出町座」に足を運んだ。ここはずばり、静岡ゆかりの映画館である。なぜか。座長(支配人)の田中誠一さんが沼津市ご出身だからだ。この本の中ではっきり言及している。
僕の育った静岡県の沼津市は幸か不幸か、日本の市町村のなかで人口比率に対するスクリーンの割合がいちばん高くて、単純に僕は映画を観やすい環境にいました。(111ページ)
2017年12月28日、1895年にリュミエール兄弟がシネマトグラフを初めて商業公開した日付に合わせてオープンした出町座は、映画館と書店とカフェの複合施設。沼津の仲見世のようなアーケード商店街、出町桝形商店街の一角にある。京阪、叡山電鉄の出町柳駅を降り、鴨川を渡ってすぐ。
ガラス越しに店内が見えるドアを開けて入ると、真ん中に10席ほどのカウンターがあって、珈琲を飲みながら本を読む人がいる。「モーニングカレー」の時間帯のようで、良い香りが立ちこめている。その外側を本棚が取り囲んでいて、気に入った本を購入できる。映画を中心としたカルチャー関係の本、新書、小説、コミックと品ぞろえはばらばらだが、一定の基準があるように見える。
座長が静岡県民であることと無関係だとは思うが、本県関係が優遇されているようにも感じる。例えば静岡市出身の野田努さんが創刊した「ele-king」のバックナンバーが充実していたり、7月に発刊された浜松市出身の松田いりのさんの『ハッピー山』が、朝井リョウさんの『イン・ザ・メガチャーチ』、三宅香帆さん『推したちとどう生きるか』の横で平積みされていたり。「マンガ大賞2026」の候補作のよしみだろうが、児島青さん『本なら売るほど』全3巻と静岡県出資の塚田ゆうたさん『RIOT』全4巻が並べて販売されているのを見て、うれしくなった。
映画館は地下42席、2階48席。地下劇場の坂西未郁監督、柄本佑さん主演の『メモリィズ』を迷いなく選択した。大切な人とのありふれた日常のかけがえのなさを届ける佳作。舞台は写真館だし、柄本さんと妻(穂志もえかさん)のやりとりも、スマートフォンの動画だったりするのだが、焦点が当てられているのは写真や動画には記録し得ない「記憶」の作用なのも興味深かった。柄本さんとイッセー尾形さんのやりとりは、恐らく演出はほとんど役者任せだろうが、言葉や呼吸のキャッチボールで2人の役柄を見事に表現していた。
長編デビュー作の坂西監督は京都造形芸術?学(現・京都芸術大学)の卒業生。本作は6月全国公開だが、地元京都の関係者ということで長く上映を続けているようだ。月曜日の朝いちばんの上映にも関わらず20人ほどが鑑賞していた。今後も口コミで広がってほしい。
97分の上映を終えて1階に上がると、大勢の人がいた。カウンター席は半分ほどが埋まり、特集上映のミッシェル・オスロ監督『古の王子と3つの花』を待つ客が列を成していた。マッチやスリッパ、チケットホルダーといった出町座グッズも並ぶ。鶴見済さんの『人間関係を半分降りる』増補版を買った。
来年12月で開業10年を迎えるミニシアターは、商店街に溶け込む文化施設としての地位を確立しているように感じた。
<DATA>
■出町座
住所:京都市上京区今出川通出町西入上ル三芳町133(出町桝形商店街内)
電話番号:075(203)9862
地下1階・映画(42席)、2階・映画(48席)、1階・カフェ(出町座のソコ)、1F・書店(CAVA BOOKS)











































































