【「しずおかこども芸術大学」特別講座】作曲家・三枝成彰さんの学長あいさつは、子どもたちの胸にも響いたか

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は8月8日に沼津市のプラサヴェルデで開かれた静岡県主催「しずおかこども芸術大学」の特別講座を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)

2011年に静岡県が創設した「ふじのくに子ども芸術大学」は、毎年夏に子どもたちが優れた芸術家とじかに触れ合い、創造意欲を高めてもらおうというのが狙いだった。今年は「しずおかこども芸術大学」と名称変更し、県内3カ所だった特別講座の開催場所を1カ所に集約した。

沼津市のプラサヴェルデで新たなスタートを切ったしずおかこども芸術大学には、全県から約170人の小中学生が集った。学長の作曲家三枝成彰さんはけがのため基調講演を欠席。病状が心配される。

ただ、基調講演の代わりとして届けられた三枝さんのテキストメッセージは、たいへん心を打つ内容だった。見学の保護者の胸にも響いたのではないか。一部紹介する。

「好きなこと」を仕事にするためには、学生のときから朝から夜までそれに没頭し、しかも毎日やり続けるほど打ち込めるかが大事です。仕事と趣味が一致している人は、これを達成しやすいとも言えますね。私が思うに、この「どれだけ打ち込めるか」というのは、才能ではなく、まさに“努力”なのです。“好き”はもちろん大事ですが、“好きなだけ”ではダメだ、ということです。

小中学生にも分かる簡潔な言葉で、芯を食った解き明かしをしている、と感じた。続けること、それ自体が才能なのだと。三枝さんは続ける。

自分でこれをやると決めたら、他の人の3倍頑張る。そしてそれを続ける。そうすれば、夢は必ず達成できるものです。ただし、それは一生かけてやらなければダメで、途中で飽きたらおしまいです。もし10歳で音楽家を目指したのなら、70年間飽きずに続けるぞ!という覚悟が大切です。

30年でも50年でもなく、70年である。三枝さんは84歳。「70年」という数字の区切りは自分自身がそうだった、ということなのだろう。

特別講座で指導するひびのこづえさん

参加者全員によるオープニングの後、全6種の特別講座を見て回ると、三枝さんの言っていた「打ち込む」という態度が子どもたちにしっかり浸透しているように感じた。

沼津市出身のコスチューム・アーティストのひびのこづえさんは「自分だけのサコッシュを作ってみる!」と題して、針と糸を使った小型のバッグ作りを指導。参加者は色とりどりの布を、自分で描いた下絵に沿って縫い付けていた。

別の部屋をのぞくと、イラストレーターのわたせせいぞうさんのポスター作りの講座が開かれていて、子どもたちは机に置いたリンゴをスケッチしていた。色鉛筆、水彩絵の具、マーカー、鉛筆。「得物」はいろいろだが、誰もが一心不乱の面持ちだ。

わたせせいぞうさんの特別講座の会場風景

どちらも意外なほど静かである。ただ「打ち込む」エネルギーは確かに感じられた。ひびのさんの講座では手元の針と糸に、わたせさんの講座では目の前の果実に。視線を外さない。集中力が熱を帯びているのが分かった。

各分野の第一人者の技量を一日で会得するのは不可能だが、何かに「向き合う」「打ち込む」を実践することは可能である。「こども芸術大学」の一番の価値は、集中力を競い合う環境の提供、これに尽きるのではないか。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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