【佐津川愛美さん(静岡市出身)のエッセー集『今日も、自分を生きる練習』】生活や俳優業についての考え方を、包み隠さず率直に、顔を上げて書いている

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は2026年6月10日に初版発行(奥付)の俳優佐津川愛美さん(静岡市出身)の新刊エッセー集『今日も、自分を生きる練習』(幻冬舎)を題材に。
(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充 写真=写真部・久保田竜平)
奥付に「著者 佐津川愛美」とあって、その下に「発行人 見城徹」と記されている。幻冬舎創立者で社長の見城さんは佐津川さんと同じ静岡市出身。旧静岡市と合併前の清水市で生まれ育っているから、ご本人は「清水の人」という意識の方が強いだろうが、いずれにしろ各界で活躍する静岡と縁の深い二人の名前がそろって記載されているのを見ると、なんだか誇らしい。二人には、静岡新聞の名物コラム「窓辺」を書いたことがあるという共通点もある。
 
『今日も、自分を生きる練習』は、幻冬舎のウェブコンテンツの連載「いつまで自分でせいいっぱい?」の文章を再構成、加筆し、いくつかの書き下ろしエッセーを加えたもの。極めてフランクな文体で、読者に語りかける。
 
「演じる仕事」「旅を知る」「生活がしたい」「自分は続く」の4章建てだが、第2章以外は「ハレ」「ケ」で言えば「ケ」を徹底的に書いているのが印象に残る。「ケ」の充実が境目なく「ハレ」の輝きにつながっていることがよくよく理解できる。
 
「ケ」といっても、そこは俳優稼業の方だから一般の「ケ」とは異なる。特に第1章の記述に接すると、脳と体を使う俳優という職業に就く者の「ケ」がいかに厳しいものであるかがうかがい知れる。
 
佐津川さんは、現場で最高のパフォーマンスを発揮するためのあれこれを、半ば強迫的に自分に強いている。スキンケアについての細かなルーティンもさることながら、いかに眠るかを真剣に考える姿に、読者は打たれるだろう。俳優は正しく肉体労働者である。
 
生身の人間には魂や感情があって、俳優もその点は一般と変わりがない。ただ、あらゆる外的要因を笑顔でくるんで人前に出なくてはならない立場でもある。佐津川さんは、とある不幸な出来事に見舞われた作品の顛末を、包み隠さず記している。率直に、偽りなく、あくまで顔を上げて書いている。
 
そのエッセーはこう結ばれている。
 
 作品は誰かの心に触れてもらうためにある。そして、お互いを尊重してこそ、より良い作品が生まれる。私はそう信じている。
 
演じ手であることに加え、今や作り手としての顔もある佐津川さんの、現時点の仕事の哲学が簡潔に示されている。筆者はここに、とてつもない力強さを感じた。「訴求力」という言葉が浮かんだ。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1