(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)
中谷ミチコ『デコボコの舟』
2023年に中原悌二郎賞を受賞した中谷ミチコさんの彫刻は、「凹凸が反転している立体作品」と説明される。私たちは彫刻の形を「でっぱり」「浮き上がり」によって認識することが多いが、中谷さんは「へこみ」や「溝」「穴」で表現する。
いわば「空洞」の芸術。へこみの部分が形を成しているため、視覚で全容を捉えることができないこともある。鑑賞者は想像力で形を補完することになる。ここに中谷さんの彫刻の妙味がある。見る側が積極的に関わる余地が残されているのだ。
「中谷ミチコ 影とぽっこり」の屋外サインボード
第2展示室に、そんな彫刻が二つ置かれている。漆喰の壁に囲まれた真っ白な空間に入ると、思わず「ほぉー」と声が出る。大きな船の形をした『デコボコの舟』(2022年)と、全長約12メートルの石こうレリーフ『影、魚をねかしつける』。
『デコボコの舟』は舞い降りる鳥と大木、そこに集う人々や離れようとする人々を「空洞」の彫刻で表現した。着色されているが、人々の服装や髪形は奇妙に統一されていて表情は乏しい。近づいて見ると複雑な凹凸の一つ一つが確かに「人の形」をしている。離れると虫食い状態になった船の姿があらわになる。
作者の作品に寄せた文章には「あることとないことについて、彫刻について、この世界のままならなさについて、考えながら制作した」とある。人の思いは十人十色。されど、船は一定の方向に進んでいく。「ままならなさ」を満載して。社会の縮図そのものに思えた。
浜松市秋野不矩美術館の外観
『影、魚をねかしつける』は兵庫県立美術館の企画で制作したもの。秋野不矩美術館の今回展では、2階展示室に当時のリーフレットが置かれている。兵庫県立美術館では上から照明を当てて展示していたが、秋野不矩美術館の第2展示室はトップライトから入る自然光が部屋を満たしている。
こちらの作品は着色がなく、ただ凸凹だけがある。くりぬかれた人の顔が複雑に重なり合い、「空洞」の内側に落ちる影でそれぞれの表情が読み取れる。注意事項を守れば手で触ってもいいことになっている。
展示室の真ん中に座り、全体を眺めてみる。上空からの光の加減で、真っ白なレリーフは驚くほど表情を変える。雲が太陽を隠す時間帯は、壁面全体が黄色く見えたりもした。
静置された作品なのにライブ感がある。過ぎゆく時間そのものも「作品」なのか。
中谷ミチコ『産む人とそれを助ける人たち』(2025年)
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■浜松市秋野不矩美術館「中谷ミチコ 影とぽっこり」
住所:浜松市天竜区二俣町二俣130
開館:午前9時半~午後5時
休館日:月曜
観覧料(当日):一般1000円、大学生・高校生・専門学校生500円、70歳以上500円、小中学生無料
会期:8月23日(日)まで













































































