​【デスティン・ダニエル・クレットン監督『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』】青春期を終えたスパイダーマン。ピーター・パーカーの「孤独」が新章幕開けを強く感じさせる

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は7月31日に沼津市のシネマサンシャインららぽーと沼津、静岡市葵区のシネシティザート、浜松市中央区のTOHOシネマズ浜松などで公開されたデスティン・ダニエル・クレットン監督『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』を題材に。
(文と写真=高度専門記者兼論説委員・橋爪充)※一部ネタバレがあります。

2022年の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、2002年からの実写版スパイダーマンの総決算のような趣だった。サム・ライミ監督シリーズに主演したトビー・マグワイア、「アメイジング」シリーズのアンドリュー・ガーフィールドが、別のユニバースからトム・ホランド版(ジョン・ワッツ監督版と言うべきか)スパイダーマンの世界にやってきて共闘する、という驚愕の展開は、「最終回」を強く感じさせるにふさわしい壮麗さがあった。

『ノー・ウェイ・ホーム』のラストで、ホランド演じるスパイダーマン/ピーター・パーカーは、ドクター・ストレンジに、世界中の人々の記憶からピーター・パーカーという存在を抹消するよう頼む。そのことが世界を救う唯一の方法だったからだ。

世界を破滅から救った。だが、その代償として自分は世界中から忘れ去られた。自分が愛した人々の記憶からも自分という存在は全て削除された。ギリシャ神話的な悲劇の香りすら漂う、何とも切ない『ノー・ウェイ・ホーム』であった。

さて、そこから4年後のスパイダーマン/ピーター・パーカーである。序盤、スパイダーマンとして生きた「あの日」からの4年間が駆け足で紹介される。共に大学でキャンパスライフを謳歌するはずだった親友のネッド(ジェイコブ・バタロン)や恋人のMJ(ゼンデイヤ)の近況も映し出されるが、彼らの記憶の中にピーターという人物はいない。

ピーターは、古いビルの一室でこつこつとスーツの開発を続け、スパイダーマンとしてニューヨークを騒がす悪漢退治に余念がない。ただ、これまでのようにネッドやMJはそばにいない。前作で共闘したドクター・ストレンジ、長くスパイダーマンの庇護者であったアイアンマン/トニー・スタークもいない。

母親代わりだったメイおばさんもいない。ほぼひとりぼっち。本作は「親愛なる隣人」としての華々しい活躍の裏側にある、ピーター・パーカーという生身の人間の「孤独」が大きなテーマである。

高校を卒業して4年たっているから、スーツを脱ぎ、マスクを取ったピーターは「少年」の姿をしていない。俳優ホランドが年齢を重ねたこともあり、表情には「甘さ」が消え、武骨さが感じられる。筋骨隆々の身体をそのままさらす場面もある。

「みんなでわちゃわちゃ」やれた青春時代は終わり、ありとあらゆる事態に自己決定が迫られる青年時代に入ったスパイダーマン。このシフトチェンジは、ワッツ監督からクレットン監督へのバトンタッチにおける最大の成果と言えよう。

それは同時に、シリーズそのものが「青年期」を迎えたことを意味する。本作はスパイダーマン/ピーター・パーカーというキャラクターのみならず、プロジェクト全体の新章幕開けを強く感じさせる。マーベル映画お得意のエンドロール後のおまけ映像では、スパイダーマンがより大きな「責任」を一人で背負うことになりそうな未来を暗示している。 

<DATA>※県内の上映館。8月3日時点
シネプラザ サントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
MOVIX清水(静岡市清水区)
シネシティザート(静岡市葵区)
静岡東宝会館(同)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズ ららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズ サンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ 浜松(浜松市中央区)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1