【駿府博物館の「中島健太展-眼差しと時間-」】「写実」の奥に潜む動的なエネルギー。杉本博司氏の『海景』と対比して見えてくるもの

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の駿府博物館で7月18日に開幕した「中島健太展ー眼差しと時間ー」を題材に。
(文と写真=論説委員・橋爪充)

中島健太さんは、日本屈指の知名度を誇る写実絵画の描き手。白日会、日展の会員で、特に日展では20代で2回特選を得ている。プロフィルによると、これは20世紀日本を代表する洋画家の一人、小磯良平以来の出来事というから、ただごとではない。

中島さんの作品は、女性を中心とした人物画、風景画、花の絵、静物画の四つの種類にだいたい分けられる。最も知られているのは人物画で、今回展にも大沢たかおさんや瀬戸内寂聴さん、佐々木希さんら著名人の肖像画が出品されている。クラシカルな背景や構図でありながら、光の入り方や肌の精緻な描き方はとても現代的だ。

個人的に心に残ったのは、風景画エリアに属する『匿名の地平線』シリーズ。2023年から2026年にかけての6点が出品されている。地図上の場所は明かされない海の風景で、奥に水平線、手前に波打ち際を描いたシンプルな構図だが、長時間見入ってしまう。

構成要素は「空」「海」「陸地」だけ。人間や鳥などの生物、人工的な構造物は一切描かれていない。それなのに、というべきか、だからこそ、というべきか。海という全世界的な運動体のエネルギーがダイレクトに伝わる。

それぞれの作品の「光の量」は違う。だが、光が乱反射する海面の様子は、沖合のうねりの大小を如実に表している。寄せる波の高い低いも興味深い。いずれの作品も高く持ち上がってくだけた波と、引き波のせめぎ合いが描き出される。二つの力のぶつかり合い。そこに生じる白いしぶき。

東京国立近代美術館で開かれている「杉本博司 絶滅写真」展を思い起こした。杉本さんの代表的な写真シリーズの一つ『海景』からいくつか出品されている。空と海で2分割されたモノクロ風景写真である。『匿名の地平線』はコンセプトや表現手法は全く異なるが、『海景』と点対称の関係にあるように思えた。

何より興味深いのが、制作者のいる場所が正反対である点だ。静かな海原が広がる『海景』は世界各国で撮影されたシリーズであり、それぞれの作品の成立には、杉本さんの精力的な「旅」が欠かせない。一方『匿名の地平線』は、極めて動的な画面でありながら、同時にアトリエでの内省的、職人的な作業をうかがわせる。

目の前にあるのは、大海の「端っこ」であり、それは私たちの目の前で常に動いている。次の瞬間を脳内で反射的に思い描いてしまう。イメージの連続が自然発生する。

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■駿府博物館「中島健太展-眼差しと時間-」
住所:静岡市駿河区登呂3-1-1 
開館:午前10時~午後4時半(月曜休館、祝日・振替休日の場合は開館し翌日休館。9月22日〈火〉は開館)
観覧料金(当日):一般800円、高校生400円、中学生以下と障害者手帳提示は無料 
会期:9月23日(水・祝)まで

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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