(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充、写真=写真部・久保田竜平)
2024年に『ハイパーたいくつ』で第61回文藝賞に選ばれた松田いりのさんの、受賞第一作。まず、川名潤さんによる大胆な装丁に驚く。絵を描いたのは米ニューヨーク在住のボンズ・ギルモアさんだが、ショッキングピンクを基調にした丸っこい文字のタイトルと、少女漫画の闇キャラのようなタッチの少女が同居していて、得も言われぬまがまがしさを醸し出している。小説の内容をかなり的確に言い当てた表紙と言えよう。『ハイパーたいくつ』は現実が加速度的にゆがんでいく様子にあぜんとさせられたものだが、『ハッピー山』はそのスピードに磨きがかかっている。自意識が肥大した若い女性がひどい目にあう話、なのだが決してひとごととは思えない。
「周囲からこう思われたい」という欲望と「こう見られている」という現実が、近づいては離れしているうちに、あるタイミングで、それこそ加速度的に距離を広げていく。このアクセルの踏み方が強烈だ。
松田さんは演劇出身の人だから、舞台設定はある程度意識的に「ベタ」なものにしている。キャンプ場に若い男女5人が集う。この時点で何らかの惨劇が予感される。途中、なぜかチェーンソーが出てくる。笑ってしまう。やっぱりそうか。
ただ、松田さんの真骨頂はそうした「借景」の前で奇想天外な方向に物語を動かす力にある。展開が読めないし、こういう書き方をする作家が思い浮かばない。カバー曲を歌い始めたのに、2番になると原曲のコード進行に乗せてメロディーやアレンジをガラッと変えてしまうようなものだ。
文藝賞授賞式でもご本人が言っていたが、「笑い」は松田さんの作品における重要な要素だ。本作でも、会話のやりとりだけでなく、「体を張ったギャグ」に抱腹絶倒させられる。とある人物のやむにやまれぬ後ずさりの疾走は、本作のハイライトの一つだ。
終盤は、明らかに映像化が不可能な展開が続く。本作は現実からいかに「トベる」かに挑戦しているような気がする。筆者は違法薬物を試したことはないが(松田さんもそうだろう)、本作はもしかしたらドラッギーな景色をこれ以上ないほどの解像度の高さで表現しているのかもしれない。










































































