(文=高度専門記者兼論説委員・橋爪充、写真=写真部・久保田竜平)

お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭さんの初小説。日大二高(東京)のアメリカンフットボール部出身者としての体験を下敷きにしたであろう、直球ど真ん中の青春小説である。
正直、筆者はアメフットについては門外漢で、競技のルールも分からないし、ここに出てくる専門用語はよく知らない。ポジション名など一部の単語(「ハドル」はゲーム中の戦略会議のことのようだ)について調べたが、相手チームのパワーバランスを踏まえた戦術の機微についての説明はほとんど理解できなかった。
だが、それを補ってあまりある、生々しく熱の入ったゲーム描写に引き込まれた。仲間から渡されたボールを手にし、相手のディフェンスを体をぶつけてはじき飛ばし、数ヤード進む。そのためにどれほどのエネルギーが費やされているかが、問答無用で伝わってくる。ほんの数秒のプレーを、スピード感を失わない筆致で鮮やかに描写する手際の良さは特筆に値する。
ヤバい!
捕らなければファンブルになる。何とかキャッチしなくてはと、左足で地面に急ブレーキをかけて、身体を反転させて手を伸ばす。だが、ボールは無情にも指の先を通り過ぎていった。(230ページ)
読者はゲームの観戦者ではなく、体と体のぶつかり合いがひっきりなしに行われるフィールドに放り込まれる。相手のやじも容赦なく耳に入る。
サム・メンデス監督の映画『1917 命をかけた伝令』(2020年)を思い出した。第1次世界大戦の最前線を駆け抜けるイギリス軍兵士の様子を、ほぼワンショットで描いた作品だ。今年公開されたレイ・メンドーサ、アレックス・ガーランド共同監督の『ウォーフェア 戦地最前線』のようでもあるだろうか。臨場感が「ハンパない」。
「平成11年」の大会に出場しているから、舞台は1999年だろう。作中に1990年代の日本語ラップの名曲が次々登場し、物語の「劇伴」として機能している。主人公のMDウォークマンや部室のラジカセから流れて出ることが多い。
BUDDHA BRAND『人間発電所』、THA BLUE HERB『AME NI MO MAKEZ』、ライムスター『B-BOYイズム』、LAMP EYE『証言』…。10曲ほど出てくる。主人公がウータン・クラン(5月に29年ぶりの来日公演を行った)のTシャツを着る場面もある。
締めは餓鬼レンジャー『火ノ粉ヲ散ラス昇龍』で、かなり長くリリックを引用する。アドレナリンが放出された選手の精神状態をよく表している。こういう手法があったか。若林さんのヒップホップへの耽溺ぶりがよく分かる。
もしこの作品が映画化するのであれば、是非これらの楽曲を漏らさず使ってほしい。アメフットとヒップホップのかけ算が、どんな力を発揮するのか見てみたい。











































































