(文/経営戦略室・天野大輔)
2026年7月3日、静岡県庁で「しずおかオシノミクス官民連携コンソーシアム」の2026年度第1回会議が開催されました。静岡県は現在、コンテンツ産業の振興やクリエイティブ人材の育成、コンテンツツーリズムを通じて地域経済の活性化を目指す包括的戦略「しずおかオシノミクス 3本の矢」を打ち出しています。本コンソーシアムはその一環として今年3月に発足したもので、今回はオンライン参加を含め、民間企業や自治体、観光協会など約50団体が出席しました。第1部では、聖地巡礼やコンテンツツーリズム研究の第一人者である近畿大総合社会学部の岡本健教授が登壇。「しずおかオシノミクス官民連携の可能性 ~静岡県はコンテンツツーリズムのトップランナー~」と題した講演を行いました。豊富なコンテンツ資源を持つ静岡県が、今後どのような“良き現実”を創出していくべきなのか。岡本教授が示したデータや提言から、そのヒントを探ります。
「正解はどこにもない」最先端を走るトップランナーの宿命
静岡県庁の会議室で講演を行う岡本健教授
岡本教授はまず、静岡県内にはコンテンツツーリズムの資源や素材がすでに豊富に存在しており、数多くの実践が先行して行われている「トップランナー」であると評価しました。しかしその一方で、最先端を走る組織や地域には特有の苦悩があることも指摘します。それは、追随すべきお手本や前例が存在しないということです。
何か問題や課題にぶつかったとき、行政や企業はつい過去に同じような事例がなかったかと「前例」を探してしまいがちですが、観光やコンテンツの分野においては、後ろを振り返っても答えがないケースが多いと岡本教授は語ります。正解は外にあるのではなく、目の前で起こっていることに対して、自分たち自身の手で正解を創り出していくという主体的な思考の筋道が求められているのだと、参加者に訴えかけました。
「誰のための良き現実か」というブレない軸
岡本教授の言葉に熱心に耳を傾ける参加者たち
前例のない中でアイデアを形にする際、最も重要になるのが「良き現実を作る」という姿勢です。組織に属すると予算やしがらみといった内部事情に目が向きがちですが、SNS時代においては、小手先で作られたものや誰が望んだのかわからない施策はファンにすぐに見抜かれてしまいます。逆に、本当に良いものや愛のあるものは正確に伝播し、最終的には地域経済の利益となって返ってくると岡本教授は指摘します。
また、アニメの聖地に集まる人々を分析すると、純粋な作品ファンだけでなく、SNS映えを狙う層やなんとなく流れてくる層まで、さまざまな人が混在しているのが現状だと言います。こうした多様性を正確に把握した上で、「一体誰のためにやっているのか」「誰を笑顔にしたいのか」という焦点を絞り込み、ブレない主体性を持つこと。これこそが成功への確かな道筋となるはずです。
大学生の7割が「推し活」の現実
岡本教授の講演の後には、静岡鉄道の担当者が『僕のヒーローアカデミア』とのコラボについて紹介した
コンテンツツーリズムの未来を占う上で、岡本教授が共有した関西の私立大でのアンケートデータは、若者たちの興味深い実態を示していました。調査によると、現代の大学生の約6~7割に明確な「推し」が存在しています。その対象はアニメキャラやアイドルにとどまらず、タレント、YouTuber、クリエイター、スポーツ選手、テーマパークのスタッフ、さらにはミスキャンパスや身近な大学の先輩にまで多岐にわたり、それぞれが自分の「推し」を定義しています。
彼らにとっての推し活の意味合いも、日々の息抜きといったライトなものから、生きる原動力やメンタルの安定剤までグラデーション豊かです。中には、自分の人生になくてはならない存在として、推しを「酸素」や「神様」と表現するほどの熱量を持つ若者もいると言います。若者たちの生活の一部、あるいは生きがいそのものとなっているこの熱量に対し、地域や企業がどう寄り添うべきなのか、施策側の姿勢が問われています。
未来の文化遺産を静岡に残すために
ノートPCや資料へメモを取る参加者たち
岡本教授は講演の締めくくりとして、これからの時代に先進地域・静岡が取り組むべきアクション、そしてこの官民連携コンソーシアムが果たすべき役割について提言しました。一つのアイデアとして挙げたのが、アニメやゲームといったメディアコンテンツに関する資料を公的にアーカイブすることの重要性です。歴史的な宝物が何百年もの時を超えて観光資源であり続けているのと同じように、貴重な資料を未来へ遺していくことは、地域にとって強力な投資になり得ると指摘します。
そして、こうしたアイデアを、それぞれの立場や視点から「こういうものが欲しい」「これが必要だ」と思うものをどんどん出し合い、活発に意見や情報を交換してほしいと語りかけました。前例のない未来へ向けて、新しい先進事例をここ静岡から創り出していこうと、集まった参加者たちへエールを送り、講演を締めくくりました。官民の知恵と熱量がつながるこの場所から、静岡のカルチャーを未来へとつなぐ新たな一歩が、踏み出されようとしています。












































































