【黒沢清監督『黒牢城』】荒木村重と家臣団が籠城中に遭遇する不可解な事件。謎解きは焦点の一つだが、カタルシスは別にある

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回はシネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)、シネシティザート(静岡市葵区)、TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)などで上映中の黒沢清監督『黒牢城』を題材に。
(文と写真=論説委員・橋爪充)

ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)に選ばれた『スパイの妻』(2020年)、ベルリン国際映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に選出された『クリーピー 偽りの隣人』(2016年)など、国内外で評価が高い黒沢清監督が初めて手がけた時代劇。織田信長に反旗を翻して有岡城に立てこもる荒木村重と家臣らの姿を、色彩を抑えた映像で描く。原作は米澤穂信さんの直木賞受賞作。主演の村重に本木雅弘さん、「謎解き」の立役者となる天才軍師・黒田官兵衛に菅田将暉さんら、豪華キャストがそろった。

戦国時代の武将である荒木村重は、かなり風変わりな人物のイメージがある。城主でありながら毛利家の援軍を要請するため居城を出てしまい、城主不在の城は織田信長に制圧される。村重の家族や家臣は皆殺しにあったという。それなのに、というべきか。村重本人は本能寺の変で信長が討たれた後、大坂・堺に移って茶人として生き延びた。

何もかも放り出し、あらゆる責任やプレッシャーから解き放たれる村重。本作は史実や原作の中にある「解放」を希求する村重の姿を縦軸に置いている。

人質の子どもを親が裏切ったからと言って斬らねばならぬ定め。見せしめのように自ら刀を振って女を殺す信長。主君の命に従わなかった家臣を、手打ちにするよう求める家臣団―。狂った世界はまた、自らが統治する世界でもある。主君たる村重は、「逃げ出したい」と口には出せない。

本木さん演じる本作の村重は、こうした感情の積み重ねを丁寧に描いているわけではない。村重の心の動きは、むしろ牢につながれた黒田官兵衛の口から語られる。だんだん、黒田が全てのシナリオを書いているような気がしてくる。

本作は冬から始まる四季を舞台にした4幕構成である。史実では1578年11月3日に村重が籠城を開始し、翌年11月19日に開城させられた。物語はこの1年を描いたものとして捉えていいだろう。

季節ごとに不気味かつ不可解な事件が発生し、地下牢の黒田が村重の求めに応じてそれを解明し、村重が沙汰を下す。信長の軍勢に囲まれた城はさながら「密室」で、“容疑者”は限られているというのがミソである。原作が「ミステリー」と呼称されるのもよく分かる。

謎解きが一つの焦点ではある。だが、この映画のカタルシスは別の所にある。この「狂った世界」で生きる人々の、生きる意味のずれや違いがあらわになった瞬間、見る者は「ぞわっ」とする。

主君への忠義、家名、武士道、家族、自分の未来―。登場人物たちの思惑の違いが会話劇から透けたとき、家臣団、城に立てこもる荒木一派の瓦解が予感される。その先の悲劇も。人間同士のつながりの不完全さに気付かされる。自分と世界の関係も同じではないかと思い至る。

緊迫感に満ちた長回しで真相が明かされる場面は、「ああ、そうだったのか」的な納得感の上に、「人は何を最上位に置いて生きるのか」という問いがどさっとかぶさる。「殉じる」という言葉が頭に浮かんだ。

<DATA>※県内の上映館。7月3日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
MOVIX清水(静岡市清水区)
シネシティザート(静岡市葵区)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズ サンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)

 

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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