「木とともに未来を拓(ひら)く」を掲げ、総合バイオマス企業として幅広い事業を展開する日本製紙。スギやヒノキなどの品種改良によって生まれた「エリートツリー」を活用して、SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」に力を入れている。エリートツリー生産を手がける日本製紙の森林(社有林・富士宮市)を地元・富岳館高校の生徒が訪れ、取り組みについて取材した。
<企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局>

林業はサステナブルな
産業の優等生

 富士宮市北部にある日本製紙の社有林を訪ねたのは富岳館高校の小野将虎さん、小泉光璃さん、瀬本翔太さん、望月颯那さんの4人。切り株が一面に広がる植栽前のエリアや、背の高い木が密集する森など車の窓から見える珍しい景色に生徒は興味津々。「木を伐(き)って、使って、植えてを繰り返していくのが林業です。SDGsが注目される以前から50年以上のサイクルを回してきた、サステナブルそのものです」と同社林材部調査役の鈴木由之さんが説明した。人の手で植えられる人工林にはスギ、ヒノキの針葉樹、ブナ、ナラなどの広葉樹、植えて1年の苗木から60年以上の森まである。さまざまな種類、年齢の森が混在することで多様な動植物にとっての多様な環境が用意され、生物多様性が守られるという。

成長早く花粉量減
林業を支え脱炭素にも貢献

 いよいよエリートツリーの林へ。同社森林資源研究室リーダーの根岸直希さんが「木を切ることは環境に悪いというイメージはありませんか?」と尋ねると、生徒たちはうなずいた。「切ったら植える。植えるなら良い木を植えたい。そうして生まれたのがエリートツリーです」と根岸さん。エリートツリーは成長が優れているとして選ばれた「精英樹」のうち、優良な木同士を人工交配し、育った木からさらに優れた個体を選んだ木を指す。農林水産大臣により認定された品種で従来より成長速度と二酸化炭素の吸収量が1.5倍以上、花粉量は半分以下、幹が真っすぐ伸びるなどの特性があるとされる。根岸さんは国内の森林の多くが樹齢50年以上になり、利用期を迎えているがコストがかかるため伐採や植林が進まないこと、“高齢”の木は二酸化炭素の吸収量が減少することなどを伝えた。
 続けて「エリートツリーを活用すると早く成長するため、雑草を除去する『下刈り』の回数を減らせます。それによって植林後のコストが抑えられます。ほかにも、木を切るまでに50年かかっていたのを30年に短縮することが見込めます」と強調した。その後、鈴木さんがドローンを飛ばし、上空から見たエリートツリー林の様子をスマートフォンを通して紹介した。「簡単に入って行けない林の奥までチェックすることができますよ」。生徒たちは歓声を上げ、先端技術や道具を使った取り組みに関心を寄せていた。
 同社は海外の社有林で磨いた育苗技術を、国内においても国や静岡県が開発したエリートツリー苗の生育に役立てている。土や肥料の組成、育苗方法を検討することで、従来は2~3年かかるところを約1年で出荷規格の高さ35~40㌢まで成長させるという。このほか、社有林を再造林する場合は積極的にエリートツリーを植栽している。さらに苗の販売も進めることで、国内のエリートツリーの普及に貢献している。

SDGsの取り組み
高校生にできること

 生徒からはエリートツリーや同社のSDGsの取り組みなどについて質問が挙がった。小野さんは「静岡と九州ではエリートツリーでも種類が違うのでしょうか」と質問した。根岸さんは「九州なら九州の気候などに合ったエリートツリーがあります。スギの場合、全国で七つほどに分かれています」などと答えた。同社からは新聞、雑誌、コピー用紙など情報伝達に使われるグラフィック紙が減少している現状と、プラスチックを減らす「減プラ」推進策の一例として紙ストロー導入の話があった。紙ストローはまだ普及が進まないが、木を原材料とする紙であれば循環させられ、環境に優しいことなどを学んだ。
 小泉さんは「私たち高校生がSDGsでできることは何ですか」と質問。「減プラ、脱炭素だけに偏るのではなく、バランスよく、複合的に考えていくことではないでしょうか」と鈴木さんは呼び掛けた。瀬本さんが「まだ使える物を安易に捨てていたかもしれない。これからは再利用できるか考えてから判断したい」と話せば、小野さんも「プラスチックから紙に代わった物を探してみたい」と語った。
 最後に富士宮市内にある「富士山世界遺産センター」へ足を運んだ。同施設のシンボルともいえる木製の逆さ富士。実は富士、富士宮両市で育った地元産の木材が使われていることを教わった。生徒たちは地元の豊かな自然の恵みに思いをはせた。

リポートを終えて

小野さん

小野さん エリートツリーやドローンを活用した取り組みが先進的で、ほかの産業にも活用されていることに驚きました。

小泉さん

小泉さん 普段見学できないような場所を見て、写真で見るだけよりもっと深いことが学べたように思います。

瀬本さん

瀬本さん 同じ種類の木でも地域によって性質など違うことや、地元の木材が身近な建物に使われていることを初めて知りました。

望月さん

望月さん エリートツリーが木を育てるコストも削減できる、人にも地球にも優しい魅力的な木だと感じ、もっとSDGsを学びたくなりました。