大自在の記事一覧
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大自在(3月19日)青春という字には
〈青春という字を書いて横線の多いことのみなぜか気になる〉。俵万智さんの歌集「サラダ記念日」(1987年)にあるこの歌に共感したことを覚えている。俵さんは当時、公立高の若手国語教師。生徒と同じ目線の姉のようなまなざしが感じられる。 横線とは、取り消し線か、大人からの横やりか、それとも若い心の奥のよこしまな思いか。下手の横好き、横道に入る…。横には負のイメージもある。青春を一直線という若者ばかりではないだろう。古い流行歌は「道にまよっているばかり」と歌った。 「蛇の道はへび」とはよく言ったものだ。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る国会での受け答えに、こんなざれ歌をひねってみた
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【D自在】玉露を「しずく茶」でおいしく
もちろん、わが家には急須がある。驚くことに、それは〝少数派〟らしい。静岡県が昨年度首都圏で行った調査に、自宅に急須があると回答した人は34%(男性の26%、女性の42%)に過ぎなかった。50代は男性の41%、女性の60%。20代は男性の18%、女性の26%。想像以上に「お茶っ葉離れ」は進んでいる。 日本茶の王様とも呼ばれる高級茶が玉露だ。自分でいれたことはなかったが、静岡茶市場(静岡市葵区)が先月開いた「茶いちばまつり」で急須を使わない玉露のセルフ試飲を体験した。茶葉は注ぎ口のある小皿に盛られ、湯ざましに入った湯と杯くらいの湯飲みとともに黒い盆に載せられて運ばれてきた。低温の湯を一度湯飲み
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大自在(3月17日)ロシア大統領選
米国の原爆開発を主導した物理学者の半生を題材にした映画「オッペンハイマー」が、7部門で受賞したことしの米アカデミー賞。日本も宮崎駿監督のアニメ「君たちはどう生きるか」と「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」のダブル受賞に沸いた。 同賞の歴史をさかのぼると、日本映画初の受賞作品となったのは黒沢明監督の「羅生門」。1952年の名誉賞(現在の国際長編映画賞)だった。日本は同年4月まで連合国軍の占領下にあった。敗戦国の日本でも芸術性の高い作品が作られていることを世界に知らしめた。 この年に生まれた一人の政治家が今、大統領選に臨んでいる。通算5期目を狙うロシアのプーチン氏。15日に始まった投票は3日間
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大自在(3月16日)さわやか
国民生活の豊かさを示す「人間開発指数」の最新世界ランクで日本は24位となり前回の22位から後退した。国連開発計画が発表した。 15日付本紙によると、報告書は「最貧層が取り残され不平等が拡大するとともに、世界規模で政治の二極化が進み、その結果行き詰まりが生じている」と分析する。特に日本の後退ぶりは深刻だ。1990年頃はランク上位の常連だった。 当時急成長していた静岡県内企業の一つが炭焼きレストランの「さわやか」。12日に亡くなった創業者の富田重之さんが86年、本紙に理念を語っている。「無定見なものまねや無思想の店づくりでは、決して繁盛することはできない」。目指すは「手作り料理でだんらんの場
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大自在(3月15日)オーバードーズ
2年ほど前、円形脱毛症になり市販の発毛剤をドラッグストアで手に取った。この発毛剤が一般薬として発売された二十数年前、欧米で大ヒットした発毛成分がいよいよ国内でも、と上司や先輩たちがざわめいたことを記憶している。 ミノキシジルというこの成分は、もともと血圧を下げる降圧剤として米国の会社が開発した飲み薬だったが、毛が多く生える副作用が現れ発毛剤に転用された。薬の作用は不思議だ。 薬のルーツをたどれば、草木、鉱物などの有効成分であり、科学の発達とともに時間と費用をかけて新薬が生み出されてきた。日本製薬工業協会によると、現在使われている薬の99%近くは50年ほど前には存在していなかったという。
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大自在(3月14日)大阪万博
2025年大阪・関西万博は準備の遅れや経費の膨張が問題視され、計画変更を求める声も上がっているが、アジア初の万博が大阪で開幕したのは1970年のきょう3月14日だった。 15日から一般公開。183日間の開催期間中、入場者は約6422万人を数えた。64年の東京五輪に続く国家プロジェクトとして、経済大国の仲間入りをした日本をアピールした。 展示の目玉になったのは米国のアポロ12号が持ち帰った「月の石」。後に実用化されたワイヤレス電話や動く歩道、電気自動車なども「未来の技術」として注目された。道路整備など関連を含め1兆円近くを投じたが、4兆数千億円の経済効果があったとも言われる。 もっとも、
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大自在(3月13日)給食を支える
学校給食法が1954年に施行されてから今年で70年。設置者の施設経費負担などとともに、この法律が定めているのが給食費の保護者負担だ。 小中学校の給食費を巡っては県内をはじめ全国の自治体で、子育て支援などを掲げて無償化や軽減の動きが広がっている。給食が子どもたちの心身の健康や成長に果たす役割は大きい。義務教育に伴う負担であり、無償化の優先度は高いのではないか。 無償化については、自治体の財政力による格差も懸念され、国主導での実施を求める声は根強い。全国知事会も昨年7月、無償化の実現に向けて国の責任と財源で制度設計するよう提言をまとめた。文部科学省は全国の実態を調べていて、岸田文雄首相は先月
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大自在(3月12日)TARAKOさん
ハリウッドで開かれたアカデミー賞授賞式で、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞に輝いた。宮崎作品としては21年ぶり2度目。 ことしは日本から「君たち―」を含む3作品がノミネートされた。「ゴジラ―1・0(マイナスワン)」も邦画初の視覚効果賞に選ばれ、日本映画界にとって記念すべき日になった。この受賞によって日本の映画・アニメの魅力がさらに多くの人々に伝わるだろう。 一方、アニメでは先週、国内外で高い人気を誇る作品の関係者2人の訃報が相次ぎ、ファンを悲しませた。一人は「Dr.スランプ」「ドラゴンボール」などを生み出した漫画家鳥山明さん、もう一人は「ちびまる子ちゃん」がアニ
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大自在(3月11日)アカデミー福島
日本サッカー協会の反町康治技術委員長(清水東高出身)が、協会サイトで「サッカーを語ろう」という連載をしている。1月には協会のエリート選手養成機関「JFAアカデミー」に触れていた。 「女子は中学生になると受け皿が減る。セーフティーネットとしてもアカデミーは機能している」と反町さんは、女子育成の成果を挙げる。出身選手が日本の女子サッカー発展に貢献してきたことは間違いないだろう。2月のパリ五輪女子アジア最終予選ではアカデミー福島の高校3年生2人が「なでしこジャパン」に招集された。 2011年の東日本大震災で福島県のJヴィレッジから静岡県に移転したアカデミー福島。震災後に東京電力福島第1原発事故
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大自在(3月10日)立ち合い
「相撲の勝負の8割が決まる」とも言われる立ち合い。両力士が互いの呼吸をはかり、息を合わせて立つ。大相撲では日本相撲協会の審判規則・行司に「両力士が立ち上がってから(行司は)かけ声をなす」とある。 アマチュアは異なる。競技者規則に「選手双方が同時に両手を土俵に付き静止した後、主審の『ハッケヨイ』のかけ声により立ち合う」と明記される。大相撲は力士が立った後に声をかけるが、アマは声が立ち合いの合図ということか。 合図はあっても、「待った」などの駆け引きで立ち合いが乱れることがあるという。アマを統括する日本相撲連盟は昨秋の大会で、主審が「手をついて待ったなし」から「ハッケヨイ」の間に、新たな試み
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大自在(3月9日)花沢の里
日ごとに強まる陽光に誘われる形で静岡市と焼津市の境にある満観峰(470メートル)に登った。石垣と板張りの建物が見事な歴史的景観を醸す山村集落「花沢の里」を過ぎ、鞍掛峠まで上がれば山頂は遠くない。 途中の登山道で先を急ぐ小学生に抜かれた。老若男女でにぎわう山頂で富士山と静岡市街を眺めた後は鞍掛峠に戻り、高草山(501メートル。 へと登り返す。こちらの山頂からは志太平野が一望できる。 高草山を南へ下ると花沢城跡の看板が見えた。ここまで来ると人影はまばらになる。案内板によると花沢城は戦国時代の山城。武田信玄の駿河侵攻時、今川の城として最後まで抵抗した。武田軍は城を包囲し、信玄は高草山中腹に陣
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大自在(3月8日)領土問題
静岡県出身の日本語講師をモロッコで取材したときのこと。それまでおとなしく講義を聴いていた生徒たちがにわかに騒ぎ始めた。 言葉が分からず何が起きているのか理解できなかったが、後から聞くと、アルジェリアと領有を争う西サハラについての講師の言及の仕方が不満で、抗議していたようだ。20年以上前のことだが、生徒たちがあまりのけんまくだったので、記憶に焼き付いている。 日本の若者が彼らと同じぐらいに領土問題を巡って高い関心を持っているかは疑問だ。1月発表の内閣府の世論調査で、ロシアが北方領土を不法占拠している現状を「知らない」と答えた人は35・0%に上った。特に若年層の認知度の低さが目立った。 政
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大自在(3月7日)ミツバチ
ミツバチが花を求めて盛んに飛び回る季節。あす3月8日は「ミツバチの日」だ。「3(みつ)」「8(はち)」の語呂合わせで、1985年に全日本はちみつ協同組合と日本養蜂はちみつ協会(当時)が決めた。 女王蜂、雄、すべて雌の働き蜂による分業や、新世代の女王蜂が誕生すると、旧世代の女王蜂が半数の働き蜂を連れて巣を離れる分封など、その生態は驚きに満ちている。特にニホンミツバチが天敵のオオスズメバチを撃退する熱殺蜂球[ねっさつほうきゅう]には驚愕[きょうがく]する。 オオスズメバチにとってミツバチの巣は格好の餌場。群れで襲って成虫を殺し、幼虫などを奪って自分の幼虫の餌にする。しかしニホンミツバチは、そ
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大自在(3月6日)あがた森魚さんと「オスカー」
シンガー・ソングライターのあがた森魚さんが「遠州灘2023」と題したCDを出した。ジャケットには、白波を背に砂浜を歩く本人の姿がある。浜松市で撮った写真という。 作品は同市を起点に各地を巡った23年の旅路が、演奏と歌、独白で表現される。75歳、51枚目のアルバムだ。近年、精力的な活動が際立つ。それは無二の節回しが健在の「歌手」「音楽家」だけにとどまらない。 「俳優・あがた森魚」として出た映画が今週、注目を集める。ビム・ベンダース監督「PERFECT DAYS」。8日の第47回日本アカデミー賞は作品、監督など3部門で優秀賞、10日(現地時間)の第96回米アカデミー賞では国際長編映画賞候補に
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大自在(3月5日)土を喰(く)らう
ウグイスのホーホケキョが聞こえた。まだ少し下手だが。メジロは花から花へと飛び回る。寒さが緩んで、鳥もにぎやかになってきたようだ。 「土の中で眠っていた虫たちがはい出し、待ちかねたように鳥がついばむ。自然の恵みを自ら求める鳥の食事は健全」と料理研究家の土井善晴さんがコラムに書いていた。食べ物がいいから、いい卵が生まれる。それが自然の摂理だという。 きょうは二十四節気の啓蟄[けいちつ]。冬ごもりしていた虫が土を啓[ひら]く。草木も芽吹く。スーパーの総菜コーナーにタラの芽の天ぷらが並び始めた。山菜の王様といわれる。独特の香りとほろ苦さに春を感じる人もいるだろう。 作家の水上勉さんの「土を喰[
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大自在(3月4日)就活本格スタート
「男女同一待遇を基本としています」。1980年、求人誌に載ったファミレスの募集広告は、つまり同一待遇が普通でなかったということだ。 86年、男女雇用機会均等法が施行。しかし10年たっても実効は限定的で、求人誌にはこんな文言が登場した。「就職の年だけ、男だったらいいのに。」(98年、人材派遣)。 どちらも「女性と求人情報―女性活躍の時代に向かって」(2018年)から引用した。著者渡辺嘉子さんは、求人広告は時代の女性観や社会の期待を反映し、その移り変わりは「人が活かされていく流れ」と注目した。 就活という言葉の登場は2000年ごろだったか。就活小説「格闘する者に○[マル]」(00年)、「シ
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大自在(3月3日)ひな人形と結婚式
きれいなものを見て楽しく感じることを「目の保養」「目の薬」と言う。「目の正月」とも表すそうで、この展示はそう呼びたい。静岡市のグランシップできょう最終日の「高松宮妃のおひなさま展」を見てきた。 徳川慶喜公の孫にあたる喜久子さまのご成婚の支度品。幅6メートルの五段飾りは豪華絢爛[けんらん]、内裏びなのわきには稚児が控え人形は19体。輿[こし]入れ道具の精巧なミニチュア600点には、たんすや衣装、夜具、食器、針箱や将棋盤、琴も。 平安時代の姫君たちの「ひいな遊び」と、中国から伝わった厄よけの風習が合わさってひな祭りの原型ができたとされる。江戸時代には人形を飾って女児の無病息災と健やかな成長を
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大自在(3月2日)小野田寛郎さん
新千円札の顔に選ばれた北里柴三郎は、現千円札の野口英世にとって細菌学の師に当たる「近代医学の父」である。大正初期に伊東温泉の一角に別荘を構えた伊東市ゆかりの偉人でもある。市内には7月の新札発行を前に顕彰碑が建立された。 北里の別荘はやがて講談社オーナーの野間家の手に移り、戦後、敷地内に野間自由幼稚園が開設された。二十数年前、老朽化した園舎が世界的建築家の安藤忠雄氏の設計で新築されるという記事を別荘の歴史も交えて書いた。取材を通じて別荘に関わる著名人が他にもいると知った。 半世紀前の1974年3月、終戦後30年近くフィリピン・ルバング島に身を潜めていた旧陸軍少尉の小野田寛郎さんが帰還し、4
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大自在(3月1日)ビキニ事件70年
浜松市でロケが行われ、昨秋から公開中の怪獣映画「ゴジラ―1・0[マイナスワン]」は、終戦直後に時代設定されている。タイトルの「マイナス」は、敗戦でゼロになった日本がゴジラによってさらにマイナスの状況に追い込まれるという意味だという。 日本で制作された実写版は30作目。第1作は終戦9年後の1954年11月に封切られた。その年3月1日の米国の水爆実験による放射能汚染禍「ビキニ事件」を強く反映。深海で生き延びていた恐竜が水爆実験により放射能を帯びた巨大怪獣になって人類に襲いかかった。 焼津市歴史民俗資料館で始まった「被災70年特別展ヤイヅ1954」に展示されたこの映画のポスターに「水爆大怪獣」
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大自在(2月29日)ドタバタ劇
子どもの頃、毎週土曜夜の楽しみと言えば、テレビでザ・ドリフターズのお笑い番組「8時だョ!全員集合」を見ることだった。ドリフのメンバーや人気タレントが演じるコントに笑い、小学校では番組に登場したギャグがはやった。 1969~85年に放送され、関東地区では最高視聴率50・5%を記録するなど「お化け番組」と呼ばれた。内容が「低俗」だとして教育団体が放送中止を求めたこともあったが、影響はなかったという。 コントは最後に大かがりな舞台セットが崩れ落ちるなどしたため、無秩序なドタバタ喜劇だと思っていたが、実際は細部まで計算し尽くされ、稽古もしっかり行っていたことを後年、メンバーや番組関係者が語ってい
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大自在(2月28日)水かけ菜漬け
転勤で各地を巡る楽しみの一つが、その土地ならではの味を知ること。記者の場合、取材する機会もあり、気候風土など背景にあるストーリーに触れるとなおさら親しみが増す。御殿場支局経験者としては、何といっても北駿の「早春の味」、水かけ菜漬けだ。 その水かけ菜漬けが岐路に立たされている。食品衛生法の改正で、漬物製造業が許可制となるためだ。経過措置期間は5月まで。6月以降も製造を続けるためには、専用の製造室を用意し、手洗い用と器具洗浄用に別々の洗い台を設ける必要がある。 水かけ菜は米の裏作で、米農家が農作業小屋の一角などで漬け込み作業をするケースが多い。個人製造業者にとっては、継続のためのコスト負担が
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大自在(2月27日)半導体
このところ、半導体絡みのニュースが飛び交っている。日経平均株価が最高値を更新した背景の一つには人工知能(AI)ブームがあり、その引き金は米半導体エヌビディアの好決算だといわれる。日本でも半導体関連銘柄が相場上昇を主導した。 ノート以外のパソコンは自ら組み立ててきたので、画像処理を担う基幹部品のグラフィックボード(ビデオカード)を通して以前からエヌビディア製品を使ってきた。中核となるGPU(画像処理装置)がエヌビディア製半導体だ。 パソコンの頭脳は幅広い処理を行うCPU(中央演算処理装置)だが、画像処理のように特定の大量データを扱う場合はGPUが優れているという。そこでAIに結びつく。AI
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大自在(2月26日)宇宙開発の進展
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、1度は失敗した国産新型ロケット「H3」の打ち上げに成功したと思ったら、今度は米国の民間企業の着陸船が月面に着陸した。民間企業で初だという。 先月には、JAXAの探査機「S[ス]LI[リ]M[ム]」が初めて月面に着陸。どの事業の成功も科学の発展にとって喜ばしいことだが、最近の宇宙開発の進展はなんだかめまぐるしい。 かつては米国と旧ソ連が宇宙開発にしのぎを削った。今は主役が国家から民間へと移りつつあるという。宇宙産業の市場規模は現状でも数十兆円、2040年には100兆円規模、試算によっては数百兆円にも膨らむとされる。民間参入が相次ぐのも無理からぬことだ。
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大自在(2月25日)ウクライナ侵攻2年
フィリピンで独裁体制を敷いていたマルコス大統領を、暗殺された野党指導者ベニグノ・アキノ元上院議員の妻コラソン・アキノ氏が選挙で破り、新大統領に就任したのは1986年のきょう2月25日のこと。 マルコス氏は冷戦下で反共産主義を打ち出して米国との関係を深め、経済振興に尽力したが、次第に独裁色を強めた。83年の元上院議員の暗殺が反マルコス運動に火を付け、国民や海外からの批判をかわそうと実施した大統領選での不正で軍の造反を招くなどして、国外脱出に追い込まれた。 当時は不正蓄財や豪勢な生活ぶりが盛んに報じられただけに、2022年にマルコス氏の長男が大統領に就任した際は時の流れを感じずにはいられなか
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大自在(2月24日)あれから34年
日本最初の元号は「大化」。645年の大化改新でなじみがある。大宝律令の「大宝」(701~703年)以降は切れ目なく元号が使われている。 きのうの本紙1面は平成が始まった1989年に関係するニュースを2本報じた。東証株価がこの年の年末に付けた最高値を更新。もう一つは、この年1月に静岡地裁で再審無罪判決を受けた「島田事件」の赤堀政夫さんの訃報。94歳。 明治以後は天皇代替わりで改元されるが、それまでは大地震や飢饉[ききん]といった凶事、吉兆などさまざまな理由で改められた。平成元年は消費税がスタート。リクルート事件で政治不信が高まり竹下内閣総辞職、参院選で与野党議席逆転。海外では天安門事件、ベ
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大自在(2月23日)吉田のうどん
かめばかむほど味の出るコシの強い麺。具材はゆでキャベツに馬肉。みそとしょうゆの合わせつゆが引き立てる。これまで食べてきたうどんとの違いに驚いた。山梨県富士吉田市の名物、「吉田のうどん」である。 店を選ぼうと地図を広げた。ふじよしだ観光振興サービスが作成した「吉田のうどんマップ」。同市内49店舗の所在地を示しているが、妙な違和感がある。南が上で、北が下になっていた。見慣れている地図とは逆さまだ。説明書きには「理由は簡単、富士吉田のシンボル、富士山が基準になっているからです」。富士山を下にはできない、ということらしい。 南北をひっくり返した「逆さ地図」に、富山県が発行する環日本海・東アジア諸
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大自在(2月22日)自動運転車
運転席に人はいないがハンドルは左右に回った。急加速や急ブレーキはなく、危険性は感じない。出張先の米国・サンフランシスコで先月、自動運転タクシーに乗る経験に恵まれた。 米国に駐在する同僚社員の計らいだった。スマートフォンのアプリで配車を予約。市内中心部で待っていると、目の前に無人の車が止まった。ボディー前部左右や屋根にはいくつものセンサーやカメラ。スマホの操作でドアロックを解除して乗り込むと、滑らかに走り出した。 設定した目的地までの所要時間が映し出されたモニターに加え、車両周辺を行き交う歩行者、車両を察知していることを示す画像も確認できた。片側2車線の道路で途中、路線バスが停留所から走り
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大自在(2月21日)ウオーカブル
日本三大だるま市と称される富士市の毘沙門天[びしゃもんてん]妙法寺の大祭に出かけた。沿道の露店から漂う香ばしい匂いや豆菓子を売る人たちの呼び込みに五感が刺激され、気持ちが浮き立つ。縁日の楽しさは歩いてこそ。 散歩、散策、ウオーキングのブームが続く。健康維持の効果が広まり、歩くことに着目したサービスが増えた。ポイントを集めて活用する「ポイ活」のウオーキング版アプリも登場し、電子マネーと交換できたりする。 「JR静岡駅前を人が中心となるウオーカブルな空間に整備」。静岡市が先日発表した新年度予算案にこんな記述を見つけた。静岡駅北口前の国道1号の地上横断を調査検討、とある。ウオーカブルとは「wa
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大自在(2月20日)ニクソン米大統領
米中が第2次大戦後の対立関係から和解へと転じる契機となったのは、1972年2月21日のニクソン米大統領による中国訪問だった。あすで52年になる。 前年7月に米大統領として初の訪中が電撃的に発表された。日本の頭越しに極秘裏の交渉が進められ、日本政府は発表に大きな衝撃を受けたとされる。ちょうど1カ月後に発表された米ドルと金の兌換[だかん]の一時停止とともに「ニクソン・ショック」と呼ばれる。 当時、中国は共産主義運動の路線や国境紛争を巡ってソ連との対立を深めていて、米国側もベトナム戦争の泥沼化で対中政策の見直しを迫られていた。ニクソン氏がウォーターゲート事件で辞任した後も両国の和解方針は維持さ
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大自在(2月19日)双頭の鷲
ロシアの紋章である金色の「双頭の鷲」は、王笏[おうしゃく]と宝珠をつかんでいる。王笏とは装飾されたつえで、宝珠は十字架が上についた球体。権威の象徴とされる。 ロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏は2010年、プーチン政権関連の汚職調査のウェブサイト、「ロスピル」を立ち上げた。名前の由来は、ロシア語の「ラスピル」。「のこぎりで切ること」と訳されるが、国家予算を「切り落とす」という意味で汚職の俗語としても使われるそうだ。 そのサイトのロゴも金色の双頭の鷲。だが、つかんでいるのは二つののこぎりだったという。「体制との闘いはおもしろいと、みんなに見せるつもりだ」。ナワリヌイ氏のユーモアで
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大自在(2月18日)クレドカード
「勝利のために自己犠牲ができる選手を起用する」「結果が大事だがプロセスを重要視する」。プロ野球の巨人が、阿部慎之助新監督の指導方針を簡潔にまとめた小冊子を作成した。選手やスタッフ、ジュニアユース、女子チームに配布する。 「クレドカード」と呼ばれるもので、一般的には名刺サイズほどの大きさ。クレドとはラテン語で信条、約束を意味する。行動指針の共有や浸透を図るため導入する企業も多いという。 全従業員が持ち歩くことで有名といえば、外資系高級ホテルのザ・リッツ・カールトンだろう。同社のクレドには「ホテルの使命」「従業員へのホテルからの約束」「従業員の顧客への接し方」が書かれている。 松崎町では2
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大自在(2月17日)女性初
令和の時代になっても日本の新聞で「女性初」の見出しを何度も目にしてきた。今年に入ってからも、日本航空、共産党、日本弁護士連合会で女性初のトップ就任がニュースになった。 明治初期に渡米した女性初の留学生で現在の津田塾大を創設した津田梅子が7月に発行される新紙幣の5千円札の顔として登場する。津田塾大前身の津田塾専門学校でも学んだ元文相(現文科相)の赤松良子さんは女性初の日本ユニセフ協会会長。先日、94歳で他界した。 津田塾から東京大に進み、労働省(現厚労省)に入った女性キャリア官僚の草分け的な存在。1986年施行の男女雇用機会均等法の成立に尽力し、「均等法の母」とも呼ばれた。 均等法は女性
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大自在(2024年2月16日・金曜日)記憶にない
「記憶にない」とは便利な言葉だ。嫌な質問に答えなくていい。本人はうそでもないつもりだろう。盛山正仁文科相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)関連団体との関係を問われて繰り返している。そう言われる限り、議論も報道も深まらずもどかしい。 ロッキード事件を巡る国会の証人喚問で小佐野賢治氏が連発した印象が強いが、国会会議録を検索すると、1947年の第1回国会から「記憶にない」旨の発言がいくつも出てくる。歴史ある言葉だ。ロッキード事件の産物ではない。 ただ、当時のマスコミは発言を面白がって取り上げ、「記憶にございません」を流行語にまで押し上げた。小佐野氏は偽証罪に問われ有罪判決が下ったが、上告中に
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大自在(2月15日)郵便料金値上げ
元日の能登半島地震で被災した奥能登で、郵便物の窓口での引き渡しが再開されたのは先月下旬。遅れはあったが、年賀状を手にすることができた住民からは笑みがこぼれた。厳しい日常の中で、紙の上の文面にぬくもりを感じた人も多かったのではないか。 メールのやりとりは手軽だが、より心の深い所まで動かされるのは郵便だと実感する。手書きの言葉ならなおさらだ。郵便が単なる事業の名称でなく、文化と位置付けられるゆえんだろう。 郵便料金が今秋にも値上げされる見通しになった。はがきは現行の63円が85円、封書は84円が110円に改定されるという。上げ幅は3割超だ。封書の値上げは、消費税増税時を除き30年ぶりとなる。
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大自在(2月14日)義理チョコ
コンプライアンス(法令順守)への意識が低い昭和のおやじが令和にタイムスリップし、不適切な発言を繰り返す。阿部サダヲさん主演、宮藤官九郎さん脚本のドラマ。SBSテレビで放送中の「不適切にもほどがある!」。 先週の第3話。情報番組のシーンで、男性司会者が女性出演者に聞く。「チョコを渡す相手はいるのかな」。すかさずプロデューサーが駄目出し。「暗に恋人の有無を聞こうとしているので、セクハラです」。何でもコンプラに縛られる令和である。ともあれ、きょうはバレンタインデー。 日本生命が先月、2万人近い契約者にバレンタインデーのアンケートを実施。「職場の人や仕事関係者へのプレゼント」、つまり「義理チョコ
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【D自在】「国消国産」進むブロッコリー
「君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ」(光孝天皇)。率直な思いやりの気持ちに好感が持てるという人も多いのでは。若菜は春の七草のことか。7種のうち、ナズナ、スズナ(カブ)、スズシロ(ダイコン)がアブラナ科である。 春に十字花をつけるアブラナ科の野菜はキャベツ、白菜、小松菜、チンゲン菜、ワサビなどがある。多くは花が咲く前に収穫するので「菜の花」とは結びつきにくい。かつて菜の花と言えば菜種油を取るアブラナのことだった。灯火が石油や電力に移行して、蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」や唱歌「朧月夜(おぼろづきよ)」の歌い出しの風景は日常から遠いものになった。 近年、存在感が高ま
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大自在(2月12日)圧巻の主人公
雲をつくような巨人ダイダラボッチの昔話は、大男の名が替わるなどするが各地にある。近江[おうみ]の国を掘った跡が琵琶湖になり、その土を捨てた所に富士山ができ、途中転んで手をついた跡が浜名湖になったと聞き覚えている。 日本一高い富士山と日本最大の琵琶湖は、筆者の頭の中でつながっている。その糸が少し太くなった感じだ。話題の青春小説「成瀬は天下を取りにいく」、続編「成瀬は信じた道をいく」の舞台は琵琶湖畔の滋賀県大津市の膳所[ぜぜ]駅周辺。作者の宮島未奈さんは富士市出身で大津市在住。 「天下を」は昨年の静岡書店大賞など10冠。2作品は成瀬あかりの中学2年から京大1回生が描かれる。「かつてなく最高」
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大自在(2月11日)小澤征爾さん逝く
高校時代に買い求め、手元にずっと置いている一冊の本がある。「ボクの音楽武者修行」。指揮者の小澤征爾さんが神戸から単身、スクーターと共に貨物船で海を渡り、未知の世界に飛び込んだ日々を自らつづった青春記だ。 スクーターを貸してくれたメーカーの条件は「日本国籍を明示すること」「音楽家であることを示すこと」「事故をおこさないこと」。白いヘルメットに日の丸のはちまきを締め、ギターを背負い、スクーターにまたがっての欧州行脚だった。 怖い物知らずの楽天精神と圧倒的な行動力。音楽への熱い思い。ページをめくるたびに興奮した。小澤さんの訃報に接し、表紙が黄ばんだその本を読み返した。変わらぬ新鮮さに心を揺さぶ
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大自在(2月10日)スターの欠場
東京・国立競技場で7日に行われたヴィッセル神戸との親善試合に出場したサッカー・アルゼンチン代表のメッシ選手。所属する米プロリーグMLSのマイアミの遠征だが、3日前の香港では脚の不調で試合に出場せず物議を醸した。 香港でのチケットは880~4880香港ドル(約1万7千~9万3千円)と高額だった。スターの欠場を巡ってファンが返金を求めるなど、約4万人が集まったスタジアムは騒然となった。香港政府も不快感を示したという。 日本では後半途中からピッチへ。最高の技術で沸かせたが、寂しく思うこともあった。入場料は香港に比べ高くはなかったが、観衆は2万8614人。6万7千人超を収容する国立競技場は空席が
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大自在(2月9日)大雪
太平洋側を先日通過した「南岸低気圧」は、関東甲信に大雪を降らせた。大雪警報も発表され、首都高速道路が通行止めになるなど交通網が混乱した。 大雪の翌日、新東名高速道路で恐る恐る静岡県東部に出かけてみた。北東方向は厚い雲に覆われ、雲間から見えた箱根の山は白かった。サービスエリアは待機中のトラックで「満」状態。その先の首都高に入れないためだろう。物流は経済の血液だ。止まった途端、さまざまな弊害が生じる。 思い起こせば10年前も関東甲信に大雪が降った。高速道路上で立ち往生したトラックが雪に埋もれて、復旧は容易ではなかった。県東部でも大雪で孤立する地区があり、自衛隊に災害出動要請が出た。 この時
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大自在(2月8日)手配書
殺人を犯した男が自分の人相書きを目にすると、着物の袖で顔を隠して足早にその場を立ち去る。かつて毎日のようにテレビで放映されていた時代劇には、こんなシーンが度々登場した。実際、姫街道の気賀関所のすぐ近くにも人相書きの高札が掲げられたことがある。 といっても、旅人が行き来した江戸時代でなく平成に入ってからの話。旧細江町(現浜松市浜名区細江町)が地域振興に再建した気賀関所に近接する細江署が1996(平成8)年、オウム真理教が起こした事件で指名手配された容疑者5人の似顔絵と特徴を伝える高札を玄関口に設置した。本紙にも記事が掲載された。 70年代の連続企業爆破事件の一つに関与したとして警察庁に特別
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大自在(2月7日)熱量
日本人が初めてサッカーで外国人チームと試合を行ったのは1904年2月6日だとされている。東京高等師範学校(現筑波大)のア式蹴球部が、横浜のクラブYC&ACと対戦した。日本サッカー協会(JFA)の公式サイトにも記載がある。 勝利への執着心など熱量は相当なものだったと想像するが、何せサッカー黎明[れいめい]期の日本である。0―9の完敗。創部10年に満たない東京高等師範には、仕方ない結果だったといえよう。 あれから120年。日本代表はワールドカップ(W杯)の常連国に成長した。2022年カタール大会ではドイツ、スペインといったW杯優勝経験国を撃破した。 開催中のアジア杯に、日本代表は出場国最上
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大自在(2月6日)脱北
自主制作作品の世界最大の国際映画祭として知られるサンダンス映画祭で昨年、1本のドキュメンタリーが観客や映画関係者に大きな衝撃を与えた。北朝鮮脱出の過酷な実態を記録した「ビヨンド・ユートピア 脱北」。同映画祭のUSドキュメンタリー部門観客賞を受賞した話題作は今年に入って国内各地で上映され、県内でも公開が予定されている。 2人の子供や80代の母親を含む5人家族が脱北を余儀なくされ、いくつもの国境や川、険しい山岳地帯を越える総移動距離1万2千キロメートルの危険な旅に出る。50人以上のブローカーが関わり、捕まれば本国で厳しい処罰や処刑が待ち受ける決死の脱出作戦だ。 追っ手におびえたり、絶望に打ち
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大自在(2月5日)プロ野球
プロ野球は11球団がキャンプインし、3月29日のレギュラーシーズン開幕に向けて始動した。残る西武も6日に予定する。今季は静岡市を拠点とするくふうハヤテベンチャーズ静岡の2軍ウエスタン・リーグへの参入もある。例年にも増して開幕を楽しみにしているファンは多いだろう。 日本最初のプロ野球チームは1920年設立の日本運動協会だが、23年の関東大震災の影響で解散。その後、34年の大日本東京野球倶楽部(現巨人)を皮切りに計7チームが相次ぎ設立され、36年2月5日に国内初のプロ野球リーグ、日本職業野球連盟が発足した。2月5日は後に「プロ野球の日」と定められた。 発足当時は六大学野球の人気が絶大で、プロ
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大自在(2月4日)立春
子供の頃には分からなかった食べ物のおいしさに、年を取ってから気づくのはよくあること。筆者にとってフキノトウはその代表格だ。苦みが原因で長い間食わず嫌いだったが、中年になってから天ぷらを食べて見方ががらりと変わった。 交流サイトには、芽吹いたフキノトウの写真がいくつも投稿されている。先日、伊豆の観光施設でロウバイや紅梅が見頃を迎え、河津桜などが咲き始めたとの記事もあった。きょうは立春。暦の上では春の始まりだ。 本格的な春の訪れが近づいているのは間違いないが、一方で静岡県は新型コロナウイルスの感染拡大警報を約4カ月ぶりに発令した。インフルエンザの警報も発令中で、同時期に警報が重複したのは初と
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大自在(2月3日)豆まきと恵方巻き
巻きずしにもいろいろな種類と呼び方がある。のりで巻くからのり巻き、キュウリを巻くとかっぱ巻き。 立春前日のきょうは節分。恵方巻きを食べる人も多かろう。この名称は形態ではなく食べ方に由来。言葉の成り立ちが面白くて調べると、「広辞苑」には第6版(2008年)から載った。 恵方巻きという呼称はコンビニチェーンが二十数年前に使いだし、全国に広まった。ただし、節分に恵方を向いて巻きずしを切らずに食べる習俗は大阪の一部地域で昭和初期にはあったとされ、以前は「丸かぶりずし」「招福巻き」などと言っていたという。 新旧問わず辞書にある「恵方参り」の風習は明治時代に初詣と入れ替わって言葉だけになった。千年
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大自在(2月2日)文学の「地産地消」
「もう、読んだ?」が、静岡県内の小説好きのあいさつになっている。宮島未奈さん(富士市生まれ)の「成瀬は信じた道をいく」と永井紗耶子さん(島田市生まれ)の「きらん風月」。昨年、静岡書店大賞、直木賞に選出された県勢作家2人が、同じタイミングで受賞第1作を出した。 先週後半から書店に並ぶ。静岡市内の大規模店では、2冊が競うように平積みされていた。ベストセラー作家の“ホーム”として、売り場の力の入れようが伝わってきた。 文芸や書店の現況は厳しい。出版科学研究所が1月25日に発表した出版指標では、紙の書籍の2023年推定販売金額は前年比4・7%減。全国の書店数は、ここ10年
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大自在(2月1日)球春到来
日差しがまぶしい。寒さのピークは越えただろうか。おとといの静岡市のちゅ~るスタジアム清水には観客が50人ほど。サザンオールスターズの曲が流れていた。グラウンドで白球を追う選手のユニホームもまぶしい。 プロ野球のウエスタン・リーグに参戦する新球団、くふうハヤテベンチャーズ静岡が先月25日から春季キャンプを行っている。投手、内野手の守備連係、外野フェンスのクッションボール処理…。キャンプ第2クールとなり、プレーの質も高まっているようだ。 野球協約でポスト・シーズンが定められている日本のプロ野球(NPB)は、10球団がきょう沖縄県や宮崎県でキャンプイン。オリックスはあすから、西武
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大自在(1月31日)能登地震1カ月
のどかな元日を襲った最大震度7の能登半島地震。石川県まとめできのう現在、死者は238人。奥能登と呼ばれる半島北部を中心に住宅倒壊が相次いだ。犠牲者の多くは倒壊した住宅の下敷きになり、住宅耐震化の重要性を再認識させた。 住宅被害は全壊から一部破損まで同県内で約4万5千棟に上る。東岸には津波が襲来し、大規模火災も起きた。道路が寸断されて救援ルートの確保に難儀して孤立する集落が目立った。改めて山が多い半島地形への救援の難しさを突き付けた。 その地震発生から間もなく1カ月。被災地の停電復旧は「おおむね月内」というが、断水の解消にはまだ時間がかかりそうだ。依然として1万人以上が避難生活を余儀なくさ
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大自在(1月30日)イチゴは果物か、野菜か
クイズです。「イチゴは果物か、野菜か」。果物ではクイズにならないから野菜と答えた人、正解です。 園芸学では木の実は果物、草の実は野菜と分類すると農林水産省の月刊広報誌「aff(あふ)」の特集にあった(2019年12月号)。表面にあるツブツブが果実。私たちが果実と思っているのは茎の先端の「花床[かしょう]」が膨らんだもので「偽果[ぎか]」というそうだ。 先週末、静岡市の久能街道沿いに孫たちとイチゴ狩りに行った。斜面のビニールハウスに案内してくれた年配の女性の応対が快活で、健康法をきくと「午前中だけで2万歩歩く日もある」「カレーにも煮干しを入れる」。 続いてこんな話もしてくれた。先日、小さ
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大自在(1月29日)3年後の大相撲
大相撲の元小結で解説者の舞の海秀平さんが、アプリスタイル社発行の雑誌「大相撲ジャーナル1月号」で3年後の2027年の番付を予想している。横綱に霧島、琴ノ若、大の里を挙げた。 初場所は、舞の海さんが期待する力士の活躍で盛り上がった。優勝決定戦で敗れたが、大関昇進を確実にした関脇琴ノ若。新入幕で11勝し、能登半島地震の被災地を勇気づけた石川県出身の大の里も見事だった。 一方で、角界は少子化の影響もあって新弟子不足が深刻だという。昨年の新弟子検査合格者は53人。年6場所制となってから最少だった。力士全体でも初場所の番付表に載ったのが599人で45年ぶりに600人を下回った。若乃花、貴乃花の「若
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大自在(1月28日)黄金世代
1999年のサッカーのワールドユース選手権(現U―20W杯)で準優勝した日本代表。出場した清水商高(現清水桜が丘高)出身の小野伸二さんや清水東高出身の高原直泰さん、昨年までジュビロ磐田でプレーした遠藤保仁さんらは「黄金世代」と称され、日本サッカーの発展を支えた。 日本代表で国際Aマッチ歴代最多152試合出場を誇る遠藤さんだが、苦しい時もあった。2000年シドニー五輪は代表落選。バックアップメンバーで帯同し、試合はスタンドから観戦した。 「見るのはつらかった。なんでこんなところにいるんだ」と自著「変えていく勇気」(文芸春秋)で振り返っている。この悔しさが、長きにわたって代表で活躍する力とな
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大自在(1月27日)能登はやさしや
石川県能登半島を旅して輪島市の旅館に泊まったことがある。40年も前のこと。記憶はおぼろげだが、一つだけ鮮明に覚えている。宿をたつ朝、玄関先で見送ってくれたおかみさんたちの姿。 別れのあいさつを交わし、随分歩いてから振り返ると、まだこちらを見ながら立っていた。頭を下げると、手を振って応えてくれた。しばらくして振り返ると、まだそこに―。息子ぐらいの年頃の、頼りない旅姿。心配だったのかもしれない。 能登は多くの旅人と、そんな一期一会を重ねてきた土地なのか。午後4時10分ごろ能登半島を最大震度7の地震が襲った元日の夜。輪島朝市が炎に包まれる映像を前に、学生時代の旅の一コマを思い出していた。 「
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大自在(1月26日)紫式部と藤原道長
〈めぐり逢[あ]ひて見しやそれともわかぬまに 雲がくれにし夜半[よは]の月かな〉。百人一首に選ばれた紫式部の歌である。 男女間のことのようだがそうではない。相手は幼なじみの女友達だと、出典になった「新古今集」の詞書[ことばがき]にある。旧友を月に見立て孤独な心境を歌にした。 権勢を望月に例え、この世をわが世と思うと詠んだのは藤原道長(966~1027年)。同じ月を見るにしても紫式部とは随分違う。「源氏物語」の作者と摂関政治を象徴する権力者が同時代を生きたことは、今年の大河ドラマの通りである。 ドラマは恋愛ストーリーのような始まり方をしたが、二人が幼少期に出会っていたとか、まして恋仲であ
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大自在(1月25日)「72日と6時間11分」
2人の米国女性記者による注目の“レース”の勝敗が決したのは134年前のきょうだった。ジュール・ベルヌの小説「80日間世界一周」にならった世界一周タイムトライアル。東回り経路を取ったワールド紙のネリー・ブライが72日と6時間11分で最初にゴールした。 もともとは体当たり取材が得意なブライの企画だった。回顧録に詳しい。「フィリアス・フォッグ(小説の主人公)に勝てるかも」。思い立つと早速汽船会社で時刻表を調べ、編集者に提案した。 当初はピューリッツァー率いる先鋭的なワールド紙ですら「女性には無理」と却下した。女性一人は危険だし、荷物も多くなるだろう。「男以外にできない」
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大自在(1月24日)路面電車
栃木県内に昨年夏開業した次世代型路面電車(LRT)が予想以上の人気を集めているという。半世紀前までは全国の多くの都市で見られたが、車の普及で減る一方だった路面電車。それだけに今世紀初の新規運行は話題を呼んだ。 路面電車は野球界のスーパースター大谷翔平選手が入団した米大リーグのドジャースと関係がある。かつての本拠地ニューヨークのブルックリンは路面電車が盛んに行き来していた。路面電車を避けるように歩いていた人々が球団名の由来となった。 Dodgers(ドジャース)のdodge(ドッジ)はドッジボールのドッジで、「避ける」などと訳される。ドジャースは「避ける人々」を意味する。本拠地がロサンゼル
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大自在(1月23日)トランプ前大統領
戦後最年少の52歳で首相に上り詰めた安倍晋三氏が2007年、在任わずか1年で突然辞任した時は驚いた。参院選に惨敗し、体調悪化も重なった。その時は、再び安倍氏が政権を担う日が来ようとは思わなかった。 12年の首相への返り咲きは、戦後では吉田茂氏以来、実に64年ぶりのことだった。その後は20年9月まで首相を務め、歴代最長の在任期間を記録した。 安倍氏が良好な関係を築いたとされるこの人の再登板はあるのだろうか。米国のトランプ前大統領だ。政権奪還を目指す共和党の候補者指名争いが始まり、初戦のアイオワ州の党員集会で圧勝。党内での人気ぶりを見せつけた。 有力な対抗馬と目されたデサンティス・フロリダ
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大自在(1月22日)安倍派解散
娘が小学校に入学した頃、妻が「いずれ必要になるから」と九九の暗記に役立つというCDを購入した。九九を暗唱する歌が収録されていて、外出のたびにかけていたら、それなりに娘の役には立ったらしい。 ほかにも算数の公式や太陽系の惑星名、都道府県名などの曲が収められていた。その中に「平家物語」の冒頭部分に曲を付けた歌があった。“歌詞”に似つかわしくないポップな曲調だったが、何度か聞くうち自然とそらんじられるようになった。 平家物語は平安時代末期の源平合戦を舞台に、平家一門の栄枯盛衰を描いた軍記物語。鎌倉時代前期に成立したとみられているが、作者は不詳。物語の背景に仏教的無常観が
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大自在(1月21日)レーニン
ロシアの革命家で、世界初の社会主義国家ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国を樹立して指導者となったレーニン。病が悪化し、1924年1月21日、53歳で死去した。きょうが没後100年の節目だ。 レーニンはペンネームで、シベリア東部を流れる大河にちなんだ「レナ川の人」の意味とされる。多くの著作物を残し、その思想は世界中の社会主義国に影響を与えた。ペンネームが定着し、本名のウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフを知る人は少数派だろう。 1991年のソ連崩壊でロシアは社会主義・共産主義と決別したが、レーニンの業績が完全に否定されたわけではない。ソ連第2の都市レニングラードは名称を革命前のサンクトペテル
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大自在(1月20日)おでん
フォークバンド「かぐや姫」のヒット曲「赤ちょうちん」がリリースされて今月で半世紀だ。貧しいふたりは寒い夜、屋台でおでんを「たくさん買う」。その先は歌詞にないが、裸電球の安アパートに持ち帰ったのだろう。 土鍋などない。ガス代も節約したいから自家製とはいかない。つましい暮らしの中、奮発したおでんの温かさが互いの温[ぬく]もりにも通じ…と、歌詞の世界が広がる。〈愛されて愛してそしてプチおでん 山崎十生〉。俳人で国文学者の坪内稔典さんのエッセー「季語集」(岩波新書)にあった句を想起した。 きょうは二十四節気の大寒。一年で最も寒さが厳しくなる時節を迎えた。大寒は、節分までの15日間を
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大自在(1月19日)相撲の神様
かつて「相撲の神様」と呼ばれた力士がいた。大正から昭和にかけて活躍した大ノ里である。身長164センチ。体重も100キロに満たない小兵だったが、大関を7年間務めた。 誠実な性格で稽古熱心。若手への指導などでも人望があったことが「神様」のゆえんだとされるが、技術にも秀でていた。足腰が強く、正攻法のはず押しを武器とし、前さばきが巧みだった。1989年発行の「古今大相撲力士事典」(国書刊行会)には、「突き、はたき、ひねり、すくい投げ、足癖は入神の技[ぎ]」とある。 100年ほど前に角界をにぎわせた名大関と同じ読みのしこ名を持つのが、初場所西前頭15枚目の大の里。2年連続アマチュア横綱の実績を引っ
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大自在(1月18日)阪神大震災
私事で恐縮だが、元日に初孫が誕生した。出産をした長女にとっても初産だった。めでたい年明けだったが、夕方に石川県能登半島を最大震度7の地震が襲う。新たな命の誕生に長女は喜んだ一方、複雑な思いも抱いていた。 1995年生まれ。生後約1週間で阪神大震災が起きた。彼女に当時の記憶はなく直接の被災者でもないが、出生時と出産直後に国内が大災害に見舞われたことに因縁めいたものを感じたようだ。届いた無料通信アプリには「生まれた時は阪神大震災。出産したら能登半島地震。何か怖い」とあった。 阪神大震災から29年がたった。木造家屋の倒壊によって多くの人命が失われ、一部地域で大火災が発生したという共通点がある。
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大自在(1月17日)学びやと震災
1995年のきょう1月17日に発生した阪神大震災は、大規模災害時に避難所となった学校がどのような状況に直面し、どう対応すべきかという点で多くの教訓を残した。発災直後から多くの住民が押し寄せ、ピーク時に32万人に達した全避難者のうち、約6割が学校に集中した。 発災から半月が経過した能登半島地震でも、被災地の多くの学校が避難所となっている。想定を大きく上回る避難者が集まったり、校長をはじめとする教職員が食料の分配などに当たったりする例があったという。 全国の公立学校の約9割が避難所に指定され、災害時、学校は避難所運営と学校の再開という問題を突き付けられる。学校は第一義的には教育の場であるが、
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大自在(1月16日)被災地の祈り
日本には15万超の神社仏閣がある。総人口で換算すると800人に一つ。石川県珠洲市はこの〝密度〟が10倍に跳ね上がる。人口1万3千弱に150カ所。80人に一つの割合だ。文化と信仰の拠点を、大切に継いできた土地柄がうかがえる。 能登半島の東端、第十代崇神天皇の時代に創建と伝わる須須[すず]神社もその一つ。5日のSNS投稿に、倒壊した鳥居の写真を見つけた。1日は初詣客約130人が境内に取り残され、神社施設で夜を明かしたという。 昨年10月、筆者は同市を訪ねた。2017年から開かれている「奥能登国際芸術祭」。23年は市内の学校、公民館などに国内外の現代美術家が61作品を展示した。 作品の多くは
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大自在(1月15日)台湾人と中国人
3歳から日本で暮らし自称「日本語しかできない台湾人」の小説家温又柔[おんゆうじゅう]さん(43)は、高校、大学で外国語として中国語を学んだ。そうして自分にとって「国語」とは何か、「国」とは何かを考えるようになった。 法政大在学中に必修で語学留学した上海外国語大で、台湾人と中国人の間の溝を身をもって知ることになる。授業で南方訛[なま]りを指摘され、顔見知りになった警備員には「中国人にしてはきみの中国語は下手だなあ!」と言われた。 留学生向けに企画された北京・西安旅行でホテルにチェックインする際、中華民国のパスポートを出すと現地ガイドは「こんな国、ないよ!」と日本語で言った。同行の学生は皆日
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大自在(1月14日)星に祈る
冬の夜は空を見上げて、ほぼ等間隔に並ぶ三つ星を目印にオリオン座を探す。青白く光るリゲル、赤っぽいのがベテルギウス、と1等星をたどり、「冬の大三角」を確認する。星座を学んだのは小学生の頃。星座が登場する「星めぐりの歌」を口ずさむ。 宮沢賢治が作詞作曲したこの歌は、東日本大震災後、「雨ニモマケズ」の朗読と併せ、復興への願いとともに各地で歌われた。祈りをささげるような旋律が胸にしみる。 年明け、北陸地方の震災発生から2週間がたとうとしている。能登半島の被害の全容は見えず、いまだ安否が分からない人も。悪天候が続き、救出、復旧作業は難航している。 「目の前のがれきから亡くなった人が発見されるのは
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大自在(1月13日)冬の地震
厳しい寒さの中、道路が寸断された能登半島では懸命の救助救援活動が続く。三方を海に囲まれた半島で山が多い地形が、陸路による救援隊の活動や支援物資の輸送を難しくしている。降雪によって一層困難になる恐れがある。 被災地は断水や停電、通信途絶、物資不足に加えて寒さと雪にも向き合わなければならない。まずは必要な人と物を送り込む必要がある。政府や自治体、関係機関は全力を挙げてほしい。中山間地に点在する集落の孤立化対策は全国に共通する課題。改めて検討を求めたい。 17日で阪神大震災から29年となる。直後に現地を取材し、軒並み倒壊した住宅や焼け野原となった商店街、劣悪な避難所の環境などにショックを受けた
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大自在(1月12日)肝心なこと
人気アニメ「エヴァンゲリオン」の映画版のテーマソングにもなっている宇多田ヒカルさんの「Beautiful World」は大好きな曲だ。だが、カラオケで歌ったことはない。歌唱力が追い付かないというだけでなく、新聞社に勤める筆者が歌うと周囲にからかわれそうな一節があるからだ。「新聞なんかいらない 肝心なことが載ってない」。 宇多田さんが言う「肝心なこと」とは何か。政治や経済の核心ネタが載っていない、という意味ではないだろう。物事の本質に迫る記事がない、との思いなのかも。 宇多田さんに反論するわけではないが、記事はともかく、写真ならば物事の本質が伝わりやすい。新聞博物館(横浜市中区)で始まった
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大自在(1月11日)八代亜紀さん死去
「ちびりちびり」「ぐびぐび」「がぶがぶ」…。飲酒の場面を表現するのにどんな言葉が浮かぶか、何人かに聞いてみた。「くいっ」と答えた左党もいた。しかし「しみじみ」はなかった。 歌手の八代亜紀さんの訃報が届いた。73歳。各紙の死亡記事には、代表曲として「舟唄」(1979年)が見出しにとられていた。1番の歌詞に「しみじみ飲めば しみじみと」とある。 2番のこの部分は「ほろほろ飲めば ほろほろと」。聞き流していたが、そんな言い方をするのか、どんな飲み方だろうと同僚と話すと、彼は「飲めば ほろほろ ほろほろと」と解していた。 国語辞典は「ほろほろ」を、花や涙がこぼれるように落ちる様子
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大自在(1月10日)雑学を教養に
しっかり覚えるようにと先生から言われ、テストにも頻出したから、四大文明と川の名は脳に刻まれている。だが暗記で済ませ、ストーリーで考えることはしなかった。 約1万年前、寒冷だった地球が温暖化すると中緯度では乾燥が始まり、人々は生活や農耕に必要な水を求めて大河のほとりに集まった。農業に最適でない土地だからこそ、多くの人口を養うために畑や水路の技術が発達した。 高校教師ユーチューバー山﨑圭一さんの「一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書」(SBクリエイティブ)の記述にひざを打った。授業動画が話題になったのもうなずける。こういう教わり方をし、学び方が習慣になれば知識が教養と呼べるレベルに高まる
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大自在(1月9日)安倍派・池田議員逮捕
「昭和の黄門」と呼ばれた元首相の福田赳夫氏(1905~95年)は、田中角栄氏との激しい権力闘争「角福戦争」を繰り広げたことでも知られる。自民党内に自ら創設した派閥に「清和会」と名付けたのは、金権体質の田中氏への強い対抗意識があったからに違いない。 名称の元になったのは中国の歴史書にある「政清人和(まつりごと清ければ人おのずから和す)」。清廉な政治は人民を穏やかにする―の意味を込めたという。森喜朗氏の第4代会長就任時に「清和政策研究会」に改称して現在に至る。 福田氏から、一昨年の銃撃事件で亡くなった安倍晋三氏まで5人もの首相を生んだが、その有力派閥が政治資金パーティーを巡る裏金疑惑で東京地
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大自在(1月8日)第二成人式
きょうは「成人の日」。成人年齢が18歳に引き下げられ、成人式は「はたちの集い」などに名称を変えた。静岡県内でもきのうまでに、20歳を迎える若者を祝う式典が各地で行われた。 一方、能登半島地震で被災した輪島市や珠洲市など石川県内の12市町では取りやめに。どんな形になるか分からないが、平穏を取り戻して無事開催できる日が来ることを願うばかりだ。 「第二成人式」という言葉を、劇作家の小林賢太郎さんの「短編集 こばなしけんたろう改訂版」(幻冬舎)にある「僕と僕との往復書簡」で見つけた。20歳の自分が、手紙をやりとりする20年後の40歳の自分に「40歳で迎える『第二成人式』という物語を書いて」とリク
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大自在(1月7日)輪島と競歩
能登半島地震で被災した石川県輪島市の情報をSNSでチェックしていると、陸上競技関係者からの投稿が目に入った。スポーツ取材の長い記者にとって、輪島と言えば競歩である。 例年4月、輪島で全日本競歩輪島大会と日本選手権35キロ競歩が行われる。2022年の日本選手権の男子では21年東京五輪に出場した御殿場南高出身の川野将虎選手(旭化成)が優勝した。 初めて訪れたのは24年前。00年シドニー五輪の日本代表選考会だった。女子20キロに出場した、ある選手を追いかけていた。輪島市に隣接する志賀町出身の板倉美紀さん。 1992年バルセロナ五輪に高校生で出場。競歩界に彗星[すいせい]のごとく現れたシンデレ
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大自在(1月6日)能登半島地震
去年の年明けは自身が新型コロナに苦しんだ。高熱、焼けるような喉の痛み、止まらない鼻水、そして腰痛。 コロナが5類となって初めて迎えたこの新春。久々に喪が明けたような、華やいだ空気を感じた。元旦、わが家の郵便受けの年賀状は減ったが、一枚一枚を手に取りながら旧友らの顔を思い浮かべ「やっぱり紙の便りはいいな」と心が温まった。 だが、それもつかの間、夕方に状況は一変した。石川県の能登半島で震度7を観測した地震。テレビ画面は多くの建物が炎と煙を上げる「輪島朝市」の様子を伝えていた。10年ほど前、ここを訪れた時も1月。氷雨が降る寒い朝だったが、海産物などを売る沿道は活気があった。 石川や新潟には同
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大自在(1月5日)規正と規制
「規制法」と名の付く法律は多い。いずれも略称だが、2000年制定のストーカー規制法や20年制定のハラスメント規制法。昨年5月には多くの命を奪った熱海市の土石流災害を受けて盛り土規制法が施行された。 ストーカーやハラスメントとは異なり、盛り土自体は正当な行為である。危険な盛り土を防ぐために新たに規制法が作られた。政治活動の資金集めも認められた行為で、さまざまな規制が設けられているが、なぜか「規制法」ではなく「規正法」である。 政治資金規正法は政治資金の透明化を図るため、1948年に制定された。「規正」は規則に従って悪い点を正しく改めること―などと辞書にある。「政治とカネ」の問題は後を絶たな
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大自在(1月4日)羽田
震度7を観測した元日の能登半島地震に劣らない衝撃を受けた。2日に東京・羽田空港で発生した日本航空の旅客機と海上保安庁の航空機の衝突事故。地震対応で物資を搬送しようとした海保機の乗員6人のうち、5人が死亡する事態になった。 年明け早々、しかも2日続けてなぜこれほどの惨事が相次いだのかと問いたくなる。地震の犠牲者も70人を超えた。2024年がどんな年になるのかと不安に駆られたのは筆者だけではなかろう。 ただ、大事故だったにもかかわらず、日航機の乗客乗員が脱出して死者が出なかったことには救われた。避難誘導や乗客の行動が適切だったに違いない。テレビの生中継では乗客が脱出する様子が映らなかったため
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大自在(1月3日)能登
石川県の能登半島で震度7の地震が発生し、多くの死傷者が出た。穏やかな元旦を迎え、つかの間の正月気分を楽しんでいた人が多かったに違いない。突然の災害で命を落とした方々のご冥福を祈りたい。 倒壊した家屋で、今なお閉じ込められた人の救助活動が続いている。一刻も早く助け出されることを願う。余震が続いているため、既にダメージを受けた建物がそう強い揺れでなくても倒壊してしまう場合もある。楽観せずに安全を最優先して避難することが大切だろう。 静岡県をはじめ全国から、警察や消防、自治体が緊急に組織した援助隊が、続々と被災地に向かっている。隊員の安全を十分に確保しつつ、精いっぱい活動をして被災者の救助や安
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【D自在】竜は架空の動物なのに
黒雲を巻き上げながら富士山を越え天高く昇っていく竜。「富士越龍(ふじこしのりゅう)」は江戸時代後期、葛飾北斎の最晩年の肉筆画で絶筆に近いとされる。90歳と長寿だった北斎が自分自身を映したという評もある。 2024年の干支(えと)は辰(たつ)。霊峰に昇り竜という絵柄に、所蔵する「北斎館」(長野県小布施町)には昨年末、多くの問い合わせがあったという。 神社の大絵馬に、島田市大代のジャンボ干支に、竜のイメージは共有されている。怪獣映画のゴジラシリーズに登場するキングギドラも、3本の長い首から上は竜にしか見えない。胴体や翼は西洋のドラゴンを想起させる。竜は聖なるもの、ドラゴンは邪悪なるものと、
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大自在(1月1日)辰年
新たな年が始まった。ことしは十干が「甲[きのえ]」、十二支は「辰[たつ]」。新たなことに挑戦し、成功を収めることができる年とされる。コロナ禍を脱してから最初の年明けでもある。社会の活気を取り戻す明るい1年にしたい。 十二支の中で唯一、想像上の動物である辰(竜)は、中国では古くから皇帝や権力の象徴とされてきた。その辰の年にふさわしいと言うべきか、国内外に注目すべき選挙の予定がめじろ押しだ。 今月13日は台湾総統選の投票日。3月にはプーチン氏の通算5選が濃厚なロシア大統領選、11月は現時点でバイデン氏とトランプ氏の再戦になりそうな米大統領選。国内では岸田文雄首相の任期切れに伴う自民党総裁選が
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大自在(12月31日)株価
年末恒例の十大ニュース。30日付本紙に掲載された2023年スポーツの国内第1位は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での侍ジャパンの優勝だった。 MVPに輝いた米大リーグ大谷翔平選手ら代表メンバーの活躍はもちろんだが、監督を務めた栗山英樹さんの采配も3大会ぶりVの要因になったことは間違いない。日本ハム時代から師弟関係にある大谷選手を筆頭に、選手との信頼関係がチームの一体感を生んだ。 栗山さんは23年を代表するキーパーソンとして東京証券取引所の大納会に招待され、一年の取引を締めくくる鐘を鳴らした。日経平均株価は、年末としてはバブル経済期だった1989年以来34年ぶりの高値を記録。
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大自在(12月30日)回顧2023年
「十年一昔」と言う。2023年、節目の「10」がいろいろあった。10年間務めた前任者が退任し、日銀総裁に植田和男氏(牧之原市出身)が就任。「金利のある世界」の足音が。富士山は世界遺産登録10年。にぎわいどころか混雑と非常識が問題化。 侍ジャパンWBC優勝の立役者、米大リーグ本塁打王の大谷翔平。ドジャース移籍契約は史上最高10年7億ドル。ボクシング井上尚弥は2階級4団体の王座統一。10本目の世界ベルト。 喜びはナインだけでなく。甲子園初出場初勝利の浜松開誠館。藤井聡太棋士は王座を奪取して全八冠独占。「僕もやりたい」「わたしに将棋教えて」という子に親にっこり。 広島でG7サミット。被爆地開
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大自在(12月29日)ソウルフード
今年注目を集めたソウルフードに、愛媛の名物で小魚を皮や骨ごとすり身にして揚げた「じゃこ天」がある。秋田県知事が10月に講演で、以前訪れた四国地方で飲食した料理や酒を酷評し、じゃこ天を「貧乏くさい」とけなした。報道を受け、県に抗議が多く寄せられネット上でも非難を浴びた。 愛媛県は「おいしい食べ物や地酒がたくさんあるので、ぜひまたお越しになって堪能してほしい」と大人のコメント。“失言騒動”でじゃこ天の知名度は一気に上がり、売り上げは急増した。愛媛のかまぼこ店では秋田からのオンライン注文も多く「秋田の殿様が失礼しました」とわびる客もいたという。 これを巡り秋田と四国4県
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大自在(12月28日)合同チーム
きのう開幕した全国高校ラグビー。第2グラウンドで静岡県代表の聖光高が秋田工高に快勝した同時刻、第3グラウンドでは大会史上初めて合同チームが「花園」の舞台に立った。福井県代表の若狭東高・敦賀工高だ。 若狭東は前身の若狭農林高時代を含め花園に34回出場。テレビドラマ「スクール☆ウォーズ」の熱血監督のモデルとなった京都・伏見工高(当時)元監督の山口良治さんや、ワールドカップ(W杯)で活躍した元日本代表の朽木英次さんらを輩出した。 そんな伝統校も、少子化による部員不足に悩まされた。新入生が加わるまで15人そろわず、敦賀工と共に活動した。全国高等学校体育連盟の統計では、今年のラグビーの加盟は863
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大自在(12月27日)姫路城
駅北口を出ると大手前通りの向こうにそびえるのが姫路城。「平成の大修理」で天守閣外壁などのしっくいが塗り直され、白く輝く姿は「白鷺[しらさぎ]城」の名にふさわしい。 法隆寺とともに姫路城が日本初の世界文化遺産に登録されて今月で30年。先月下旬に姫路市を訪ねた折、大天守に登った。階段は狭く傾斜が急。城内を紅葉が彩る観光シーズンも重なって、大勢の観光客で混雑して一時、入場制限も行われたほどだった。 連立式天守を巡った後は西の丸にも足を延ばした。西の丸長局[ながつぼね](百間廊下)と化粧櫓[やぐら]は千姫のために建てられたとされる。豊臣秀頼の正室だった千姫は大坂落城後、譜代大名の本多家に嫁ぎ、移
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大自在(12月26日)ミスを楽しむ
「推し活」。2021年の新語・流行語大賞にノミネートされた言葉は、好きなアイドルや俳優らいわゆる「ご贔屓[ひいき]」をさまざまな形で応援する-との意味である。特に若い女性の間で使われていた記憶がある。 そんな「推し」の対象が活躍すれば、女性に限らずうれしいものだ。年の瀬になり、一年を振り返ってスクラップブックをめくった。下手の横好きであるが時に楽しむゴルフの男子プロツアーで今季、清水町出身の岩崎亜久竜[あぐり]選手が国内三大大会の「日本オープン選手権」を制してツアー初優勝を果たした。 昨年12月の本欄でも触れていた。ツアー本格参戦した昨季は、優勝こそ手中にできなかったが3戦で2位に入った
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大自在(12月25日)わらしべ長者
貧乏な男が観音さまに願をかけ、お告げ通り1本のわらを持って歩きだす。わらにくくりつけたアブがミカン、反物、馬と次々に交換され、ついには留守を預かった屋敷や田地の主になる。昔話「わらしべ長者」である。 元になったのはインドの仏教説話「チュッラカ長者」とされ、貧しい男が知恵を働かせ、最後には長者の娘と結婚。秘められた能力を発揮すれば成功できると教え、最初は死んだネズミだ。 わらしべ長者の話は、古くは平安時代末期の「今昔物語集」、鎌倉時代の「宇治拾遺物語」「雑談集」にある。幸運をもたらしたのは信心深さか、善良さと巧みに交渉を進める利口さかと、日本史学者西田知己さんの著書「民話・笑話にみる正直者
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大自在(12月24日)鶏料理
新聞の用字で「とり」は、一般用語としては「鳥」、ニワトリは「鶏」と表記することになっている。ただし「風見鶏」以外はニワトリでも鳥を使ってよく、鶏肉を鳥肉と書いても構わない。 「とり肉」と言えば大抵の人はまずニワトリの肉を思い浮かべるだろう。鴨[かも]南蛮や北京ダックなどは名を挙げて区別する。このように食材で「とり」と言えばニワトリなのに、焼き鳥を「焼き鶏」と書かないのはなぜか。「やきとりと日本人」(土田美登世著、光文社新書)を読んで納得した。 ニワトリは約2千年前に朝鮮半島を経て日本に伝わったとされる。675年に出された最初の肉食禁止令の対象5動物の一つ。仏教の浸透とともに四つ足の肉食が
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大自在(12月23日)育成と再生
静岡市を拠点に来季から日本野球機構(NPB)のプロ野球2軍戦に新規参入するハヤテ223[ふじさん]。新入団選手やコーチ陣が発表されるなど、チーム作りは順調に進んでいるようだ。期待は高まる。 静岡高出身の赤堀元之監督は「育成と再生」をテーマに掲げる。1軍を持たず、NPBに入りたい選手、戻りたい選手が個人の能力を磨くことに力を注ぐ。そこは独立リーグの選手と変わらない。 今年のNPBドラフト会議では、独立リーグ所属から過去最多の23選手が指名され、社会人の14人を上回った。社会人は高卒から3年、大卒なら2年たたないと指名が受けられないが、独立リーグの場合は1年目から指名可能であることも要因だろ