水害特化の教材で授業 静岡・志太榛原大規模氾濫減災協が開発
(2019/2/10 08:39)-
静岡県中部7市町や県、国土交通省などでつくる静岡地域・志太榛原地域大規模氾濫減災協議会は2018年6月から、水防災に関する中学生用教材パッケージの開発に取り組んでいる。17年度小学生向けに作成した事業の第2弾。今年1月28日、モデル校の島田市立島田二中で、ほぼ完成段階のテキスト「『知る』ことで みずからの命を守る」を使って模擬授業が行われた。
「なぜ多くの人が逃げ遅れたのか」―。18年7月の西日本豪雨で多くの犠牲者を出した被災地の写真を見せながら、吉田皓教諭(24)が問題提起すると、2年生33人が8班に分かれて話し合いをスタート。「足の不自由な高齢者がいたから」などと各班がボードに書いて発表した。
吉田教諭は逃げ遅れの原因の一つに「災害時に陥りがちな人間心理」があることを紹介。自分は大丈夫と考えたり、自分だけ別の行動を取りたくないとの意識が働いたりする「バイアス」について説明し、こうした心理が生死を分ける可能性があることを説いた。
地震災害と違い、水害は事前に情報を仕入れ、適切な場所に避難すれば身を守ることができる。教材ではバイアスのほか、各災害情報の取得方法を教えることに主眼を置いた。テキストは15ページで、計3時間分の授業内容を想定。時間配分などを示した教員用テキストも用意する。
小学生向け教材パッケージは5年生の活用を想定し、すでに7市町の全小学校に配布された。土砂崩れや河川氾濫などの映像データを多数提供。ハザードマップの活用法などを提案したりしている。
西日本豪雨や2015年の関東・東北豪雨など大規模水害が全国で発生し、水害に絞った防災教育の必要性を指摘する声が上がる。防災教育は学校側が関係機関の出前講座に頼るケースも多いが、同協議会は教材を用意することで、教員の継続的な指導につながることを期待する。
吉田教諭は「自分たちが授業を行うことができるようになれば、生徒の話し合いでも意見が出やすくなるのでは」と前向きにとらえる。県中部地域局危機管理課の沖剛主査は「防災のエキスパートが内容を検討し、先生方にもテキスト作成に関わってもらった。授業で活用しやすくなったのでは」と話す。
■「時間割難しい」 総合学習や理科に活用
水防災に特化した教材パッケージは国交省や県、地方気象台、自治体の担当者のほか、小中学校の教諭らも会合に参加して作成された。教諭の負担増につながらないよう配慮されているが、現場では水防災教育の必要性は認めつつも「そのためだけに、新たに授業時間を確保するのは難しい」との声が漏れる。
防災教育は総合学習の授業で、地震災害を想定して行われるケースが多い。島田二中の岩尾秀幸教頭は「テキストの一部を抜粋し、これまでの防災授業に盛り込むなど、柔軟なアレンジや活用が必要になる」と話す。
小学校のモデル校だった静岡市の中藁科小では、5年生の理科で「台風の動き」や「流れる水の働き」を教える際に教材を活用している。塩沢康人教諭は「自由に使える時間が少ない中で、教育課程のどこに組み込むかが難しい」と課題を挙げる。
テキストは今後どの程度活用されるか。現場では「河川に近い学校は積極的に取り入れるだろう。地域性によるのでは」という声は多い。
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