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増田守人の歌声生の声(4) 涙こらえるおじさん

(2018/9/7 16:39)

 ちょっと気恥ずかしい話だけれど、大人になった今でも泣くことがある。感動して涙を流すことは意外にあるものだ。
 20代から30代にかけて、ドイツの北部にあるブレーメンという街に住んでいた。ある日、旧市街にある教会でのコンサートに出かけた。プログラムはブラームスの「ドイツレクイエム」。この作品が初演された由緒ある教会である。ピアニッシモで始まる曲の冒頭から目頭が熱くなり、第四番の一番好きな曲が来る頃には自然と涙があふれ、もう止めることができなかった。
 純粋に音楽の力に心を揺り動かされた。こういうと、なんだか格好よく聞こえるが、実は単に涙もろいだけなのかもしれない。実際、甲子園での高校野球の入場行進を見ては感動し、テレビのドキュメンタリー番組を見ても泣く。劇場や映画館は最も危険だ。でも周りからすれば、おじさんが泣いているのはかなり気持ちが悪いだろうから、極力我慢することにしている。
 さて、「オペラ座の怪人」は泣けるシーンには事欠かない。終幕のラスト、怪人が愛したクリスティーヌは彼の元を去る。遠くからは恋人ラウルとの愛の調べが聞こえる。ひとり取り残された怪人が花嫁のケープを抱え、「我[わ]が愛は終わりぬ、夜の調べとともに」と歌う。そして、限りなく美しい幕切れへと進む。そこに降り注ぐ曲はまるで天上の音楽のようだ。
 観客がかたずを飲んで舞台に見入っている時、実は僕もカーテンコールの出番を待ちながら、毎日このシーンを舞台上手の袖から見ている。クリスティーヌへの想いと決別し、玉座に向かう怪人の姿は限りなく美しい、神々しくさえも見える。
 でも、僕が涙を流していても、辺りは真っ暗だからきっと他の俳優たちにはわからないに違いない。

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