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2018年6月8日【大自在】

(2018/6/8 07:42)

 「いい映画とは国民や民族の本当の顔が見える映画だと思う」。フランス生まれのジャンリュック・ゴダール監督の2002年来日時の言葉だ。1950~60年代の映画刷新運動ヌーベルバーグ(新しい波)の旗手。個々の物語は歴史の瞬間を形づくり、同時に歴史は個人の小さな物語の瞬間でもある、という
 ▼ゴダール作品などの字幕翻訳で活躍した寺尾次郎さんが、おととい亡くなった。62歳。「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」のデジタル処理版がおととし公開された際は、両作で手掛けた新訳も話題だった
 ▼音楽好きには山下達郎さんらの音楽バンド、シュガー・ベイブのベース担当でも知られた。75年唯一のアルバム発表後に加入したが、19年後のCD化では在籍時の解散公演の音源が追加され、こちらも話題だった
 ▼映画会社勤務を経て、字幕翻訳家の道に進んだ。ベルギー人監督ダルデンヌ兄弟が2005年カンヌ映画祭で2度目の最高賞に輝いた「ある子ども」も“名訳”の一つ。劇伴もなく描かれた、若い男の無知と救いがたい優しさに言霊[ことだま]を与えた
 ▼雑誌インタビューで、翻訳者はイタコ(口寄せをする巫女[みこ])のようと語った。1秒間4文字制約がいわれる字幕翻訳。ゴダール作品は、分かりやすい言葉に置き換えると、監督を裏切ることになる、とも
 ▼「分からなさを持ち帰り、時間をかけて咀嚼[そしゃく]してくれたら」。思考と感性に響く余韻は、リズムをうねらせた音楽活動に似る。梅雨入りとともに届いた訃報に、〈雨は手のひらにいっぱいさ/そうさ僕の心の中までも〉。

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