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伊豆の食紀行

伊豆の魅力といえばやっぱり味覚!
栽培や漁の現場、こだわりの加工法、そして買える・食べられる場所など、
今が旬の伊豆の幸を、様々な角度からご紹介します。

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巨峰
巨峰
旬の時期8月下旬から9月下旬。露地栽培なので多少の変動あり、今年は遅め。
全国で最も多く作られているブドウは?答えは『巨峰』。数ある品種の中で、全出荷量の約6割を占めるそうだ。紫黒色の実がビッシリとつく房を持ち上げると、見事な重量感。ただ甘いだけの果物とは違い、種周りの果肉のほのかな酸味と苦味が、その周りの果肉の濃い甘みと混じりあって味に深み、こくを加えている。堂々たる名前にふさわしい食べ応えだ。
知る人ぞ知る事実
 修善寺との町境にある中伊豆町のシンボル看板を中伊豆側から見ると、そこには「巨峰のふる里」の大きな文字。ブドウの王様『巨峰』が、実はこの中伊豆町で生まれたことをご存知だろうか。
 巨峰の生みの親、理農学者の大井上康氏は、農作物には、生育段階に応じた種類や量の栄養を与えなければならないと説いた『栄養周期学説』の提唱者。学説を自ら実践すべく大正8年に研究所を構えたのが中伊豆町上白岩だった。
 岡山産の「石原早生」とオーストラリア産の「センテニアル」という品種の交配に成功し、大粒で糖度の高いブドウが完成したのが昭和18年頃。20年には、富士山の見える伊豆で生まれた大粒のブドウという意味で、『巨峰』と名付けられた。
 しかし現在、中伊豆町で巨峰を生産する農家はたった1軒。巨峰を手がけて45年の牧野種夫さんだけなのだ。「若い頃は、何度も大井上先生のところに足を運び、相談したものだ。5月下旬の花の時期に気温が安定しないし、年間2000ミリ以上の多雨も巨峰栽培にはよくないね」。適地とはいえない中伊豆で、大井上氏の直接指導を基に、牧野さんは工夫を重ね、大事な果樹を育てている。
 
看板
昨年は、大井上氏没後50年を記念したフォーラムが開催され、韓国からも参加があった。氏の巨峰は大切な町の財産だ。

ぶどう畑
家の向い側が畑。日光と風の入りをよくするために、ブドウの木々は間隔をあけて植えられている。
牧野さん
「ひと房35から40粒実れば上出来」と牧野さん。春の新芽に3つつく花を潔く2つ落とすのが大きく実らすコツ。

蔵書
夜の読書が一番の楽しみという牧野さん。蔵書は初版本ばかり2万冊!鴎外、漱石とドストエフスキーを研究する、心は今も文学青年。

  全国からラブコール
「20軒以上が一緒に栽培を始めたが、栽培の難しさに加え、販路につまずいた人が多かった。その頃の主力品種オンタリオが1キロ40円だったのに対し巨峰は180円。初任給1万円以下の時代には、たいした贅沢品だったからね」、と牧野さん。
 次々と生産を断念する農家が出る中、牧野さんは伊豆の地域性を活かし、販売網を広げた。修善寺、伊豆長岡などの旅館で、食後のデザートに巨峰を使ってもらい、宿泊客にお土産として買ってもらえるよう頼んでまわったのだ。夜、旅館から注文を受けて、朝一番で収穫、採れたてをお客の出発時間までに届けた。巨峰を気に入った芸者さんたちが、お座敷のお客から注文をとってくれたこともあったという。
 こうして、かつては65アールに及んだブドウ畑だが、今は夫婦二人で作れるだけにと10アールに縮小。しかし、伊豆の観光との結びつきでファンを増やした牧野さんの巨峰には、毎年、全国のお得意さんから注文が入る。
 「お宅のじゃなくちゃ食べた気がしないって。8月も半ばを過ぎれば、まだかまだかと催促の電話ですよ」、牧野さんは目を細める。地元よりむしろ全国で有名な中伊豆の巨峰。待ち望む声が続く限りは、“ふる里”の名を消すわけにはいかない。
お店紹介

[買う]前下葡萄園・牧野(中伊豆町上和田 Tel.0558-83-0724)
直接訪れるとその場で摘み取ってくれるから新鮮そのもの。試食もいただける。地方発送分も、午後5時頃に摘み取ったものが夜9時には宅配便の営業所を出発する。実が房から落ちやすいため、ひと房ごと包んで箱詰めする。1キロ1200円。

[見る・楽しむ]大井上記念館(中伊豆町上白岩 Tel.0558-83-0505)
大井上康氏が設立した研究所は、今は記念館となり、著書や研究資料などが保管されている。氏自ら設計した洋風建築の建物も、平成12年に国の登録有形文化財となり、こちらも一見の価値あり。ご家族のお住まいなので、事前に連絡が必要。


 
聞き込みメモ

新鮮さ、甘さ選びの決め手
茎が枯れやすく、実がポロポロと落ちやすいのが巨峰の難点。選ぶ場合は、なるべく茎が緑色で実が歯抜けになっていないものを。実の色は紫が濃いほど甘い。そして、実の表面の白い粉は、新鮮さを保つ役割の“果粉”というもの。これが目立つものを選ぼう。

どこが甘い?
ブドウの房は、やはり日の当たりがいい上側が甘いようだ。上の実ばかりを狙う野鳥やハクビシンのお墨付き。味見は下のほうの粒ですれば間違いなし。

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