2018年12月01日(土)付 朝刊
森町の県立遠江総合高では、毎週木曜日の始業前に「朝NIE」を実施している。全校生徒約680人が教師の選んだ新聞記事を読んで自分なりにかみ砕き、考えをまとめる。普段の授業だけでは身に付きにくい伝える力やまとめる力を養う狙いだ。
11月上旬の3年生の教室。この日生徒が読み込んだのは、ハロウィーンについて論じた本紙の「大自在」。都内ではことし、軽トラックがひっくり返される騒ぎもあった。「限度を守って楽しむべき」「大人がただ騒ぐのは本来の趣旨ではないのでは」-。10分間で、教師が準備した設問への回答と併せて自身の考えを記述する。
題材となる記事は社会や政治、科学分野に加え、地元森町の話題など多岐にわたる。浅沼辰哉さん(18)は「授業では意見を言うことより、教わる機会のほうが多い。朝NIEは自分の意見を考える機会にもなる」と歓迎する。
一部のクラスでは「スクラップリレー」も実施している。生徒が気になった記事を1冊のノートに貼り、次の担当者が内容を要約する。記事に対し肯定的か否定的かの立場で感想も記す。朝NIEでは教師が記事を選ぶが、スクラップリレーは生徒が主体的にニュースを選ぶことで一つの話題にもさまざまな考え方があると知ってもらうことを期待している。
「ニュースを知るきっかけにもなるし、新聞を読むきっかけにもなる」と、森松麗華さん(17)。文章の理解力の向上にもつながっていると受け止める。
NIE担当の江間喬教諭(36)はそれぞれの取り組みの意義について「社会を知ることに尽きる」と断言。大学入試や企業の入社試験で求められる教養の習得ももちろんだが、世界のさまざまな動きに触れることで視野を広げ「進学や就職における選択肢をできる限り増やしてあげたい」と強調する。地元の記事がふんだんに載る地方紙を読むことで、地元の課題や良さにも気付いてほしいと願いを込める。
朝NIEで自身の考えを記述する生徒たち=森町の県立遠江総合高
生徒が新聞記事をまとめたスクラップノート
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■紙面授業-国語 知識組み合わす力 静岡北中・高 相沢貴之先生
7月28日に皆既月食があり、翌29日付の新聞で「赤銅色に染まる月」として報じられました。与那国島では皆既月食に特有の赤黒い色をした月の姿が見られたそうです。
ここで、問題です。「月食」を5歳児に説明する文章を1分で考えてみてください。
どのような文章を考えたでしょうか。
たとえば「月と地球と太陽が一直線になって月に地球の影が映ること」「地球が太陽の光をさえぎって月が暗くなること」などでしょうか。文章の内容については理科の図鑑などを使って確認してみましょう。自分で絵にしてみるのも良い確認になります。必要ならば修正もしてください。
ここで、さらに問題です。文章の中で5歳児に通じそうにない表現を探してみてください。
5歳児に分かるかどうかが肝心です。分かりやすい説明とよく言いますが、説明する側には「これなら分かるだろう」という思い込みが入りがちです。相手側から見て分かるための表現に直す必要があります。
「一直線」「さえぎる」は通じないかもしれません。「月と地球と太陽」の並び方はこれで本当に伝わるでしょうか。理科の知識に基づきながらも、言葉の力を最大限に活用し、相手に対して適切な言い換えを考えてください。
こうして見てきたとき、この皆既月食の記事を使った問題は理科の知識と国語の表現力の組み合わせであることに気付くでしょう。
一つの授業の中で複数教科の内容を駆使することが大切だと私は考えています。別の授業で習った知識や常識を、目の前の課題の中で組み合わせて考えていくと、より良い考えが生まれることがあります。全てが自分の考えとしてつながり、学びとなる瞬間です。
記事の伝え合いを通して、より発展的な考えを誰かと共有することも可能です。
より良い考えを生み出すために、今ある知識を組み合わせて課題に向かいたいものです。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(21)新聞のある環境づくり(矢沢和宏/焼津豊田中)
「NIEが学校全体に広がらない」という悩みを聞くことがあります。こんな時こそ、「やさしいNIE」の出番。無理しても長続きしません。できることから取り組んでみましょう。
第一は「新聞が身近にある環境づくり」。子どもたちや教師が新聞に接する機会を増やすため、誰もが閲覧可能な場所に新聞を置いたり掲示したりします。できれば、サロン風にゆったりと座って読めれば最高。毎朝子どもたちが運べば、新聞記事を話題にする機会が増えます。その話題を昼の放送で紹介すれば、立派な学校全体のNIEです。
第二は「興味をもった先生から」。子どもに読ませたい記事や面白い取り組みを見つけた先生が、同じ学年の先生らに紹介することを心掛けてみましょう。それだけで実践化につながります。
最後は「学校図書館との連携」。司書さんと協力して、新聞記事の掲示、ニュース記事に関連した本の紹介コーナーの設置、授業に使えそうなスクラップづくりなどの取り組みはどうでしょう。自分自身が楽しいと感じていれば、NIEは必ず広がっていきます。
(焼津豊田中・矢沢和宏)